コラム

このコーナーで何度か取り上げた妻の母が「コロナのワクチンは打たない」と言い出しました。背景にあるのはインターネット上にあふれる陰謀説です。

ちまたには新型コロナウイルス感染症(COVID-19)予防の切り札とされるワクチンは不要かつ有害であり、接種を進めるのは製薬会社の陰謀、とする説が流れています。義母はYouTubeでそういった情報に接した結果、接種拒否という結論にいたったようです。

コロナ禍をより悪化させているネット情報との健全な付き合い方について、今回は考えてみようと思います。

■家族が驚いた「ワクチンは打たない」宣言 

72歳になる義母はこの春、肺がんの診断を受けました。現在のステージは2~3。末期ではありませんが、重度の間質性肺炎を抱えているため、効果的な治療ができない状態です。

肺がんと間質性肺炎はCOVID-19における強い増悪因子です。呼吸器内科の専門医に義母のリスクについて尋ねたところ、「言い方は悪いが、感染したらイチコロです」という明解な回答がありました。

その一方、がんや間質性肺炎はワクチンの副反応に関係しない、と言います。ワクチン接種のメリット・デメリットには個人差がありますが、義母については「感染予防」というメリットが圧倒的に大きい状況なのです。

ところが、YouTubeの情報を鵜呑みにしている義母はほとんど聞く耳を持っていません。メリットとデメリットについて説明してみましたが、「○○先生(ネット上の発信者)が言っていた」というばかりで、説得には時間と手間がかかりそうです。

■ネット上にあふれるフェイクと間違い

デマの拡散量について、アメリカの心理学者であるオルポートは「重要性」「あいまいさ」「もっともらしさ」による、と説明しています。COVID-19は世界中の関心事でありながら、新たな感染症であるため、発表される情報には一定のあいまいさが含まれます。

そういった情報を「専門家っぽい人」がもっともらしい口調で語ると、その情報に飛びつき、拡散する人が増えているのが現状と言えます。

さらに現代にはオルポートの時代とは違って、拡散量が経済的な利益につながる、という事情があります。そのため、これまで人類が体験したことがない大量のデマが世界中を飛び交っているのです。

デマには大きく分けて次の3つがあります。

①意図的に作られたフェイク:「ワクチンは製薬会社の陰謀」「ワクチンを打つと2年以内に死亡する」「政治家が打っているのは生理食塩水」などの情報がこれにあたります。最初に流す人の目的は広告収入もしくは承認欲求の充足です。

②極端な学説の採択:医学者が発表する学説は非常に多様であり、中には事実とは異なる学説も存在します。発表された学説は他の研究者から批評され、間違っているものは時間を経て淘汰されます。極端な学説の多くはそうやって消えていく(省みられないようになっていく)のですが、そういった多くの医学者が相手にしない情報を取り上げて、あたかも「誰も知らない真実」であるかのように語るケースが見られます。

③間違った解釈:専門家が発表した学説を間違って解釈し、情報として発信するケースです。意図せずして間違う場合と意図的に間違えているケースがあります。

■デマを見極める基準は「動機」と「人格」

一般の人がデマを見極めるのは非常に困難です。特にCOVID-19に関係する医学分野の情報は理解の前提となる知識が非常に難解であるため、専門家でなければ「それはないだろう」という疑義を抱くことが難しいのです。

ですから、一般の人が情報の真偽を見極める上で、一番の手がかりになるのは発信者の「動機」と「人格」になります。

動機面でもっともわかりやすいのは金銭的な利益です。YouTubeであれば、広告が出てくるものについてはほとんどの場合、発信者に広告料が支払われている、と考えることができます(一部、例外はあります)。

金銭的な動機に加え――あるいはそれとは別に、承認欲求を目的とする人もいます。美容整形など専門外の医師や整体師、薬剤師など医療関係者に多く、COVID-19やがんなど関心を持つ人が多い分野について、専門家とは異なる特異な知見を発表しているケースが少なくありません。

医療について、こういった動機で情報発信をする人の多くはページビューを目的とするため、信頼性が高くバランスのとれた情報よりも、医療に詳しくない人の不安をあおり、関心を引きつけやすい情報を好んで拡散する傾向があります。

人格面については情報を発信する姿勢で判断できます。コメントに対して過度に反応したり、不適切と思える言葉を使ったりする発信者はやはり人柄に問題がある、と考えるべきでしょう。

■シェアする場合は一次情報へのアクセスを

極端な情報をSNS等でシェアしたり、人に話したりする場合にはぜひ、一次情報を確認するよう心がけてください。一次情報とは、誰かがSNSにあげている解説や紹介ではなく、学術論文や統計データ等、大本の情報です。

学術論文を読み込むのは手間がかかります。場合によっては理解が難しいケースもありますが、難しい用語やベースとなる知識などはインターネットを利用することで、多くは理解できます。

英語で書かれている学術論文についても、最近では優れた翻訳ソフトが提供されているので、それらを使えば、かなりしっかり読み解けます。

逆に言えば、一時データを読み解けないのであれば、医学的な情報を拡散したり誰かに紹介したりするのは避けるべきです。間違った情報と正しい情報を判断するのに必要な基礎学力が不足しているからです。

医学情報は人命に関わる重大な情報です。拡散するのであれば、一次情報を確認した上、実名で語る必要がある、と考えてください。

■まとめ

ワクチンについては義母に限らず、多くの人が不確かなネット情報に振り回されている状況です。何を信じるかは個人の自由ですが、情報の拡散は話が別です。

この自由の行使には一定の責任が伴います。医学情報は人命に関わる重大な情報なので、拡散するのであれば、「一次情報を確認した上、実名で語る必要がある」と考えてください。シェアも同じです。

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