デルタ株のまん延が止まらない中、「ワクチンを打たない自由」を訴える声が高まっています。個人の自由と社会全体の利益はもともと相反しやすいテーマです。どのように取り扱うのがよいのか、健康をキーワードに考えてみました。

■「ワクチンを打たない自由」を訴える人が急増

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)については現状、特効薬や標準治療が存在しません。アメリカのCDCなどももっとも効果の大きい対策はワクチン接種、とうたっており、集団免疫の実現を目指すのが社会的なコンセンサスとなっています。

そんな中、国内外で「ワクチンを打たない自由」を標榜する人が目立つようになりました。単にワクチン接種を見送るだけでなく、接種の拒否は守られるべき個人の人権である、と語る人も多く、物議を醸しています。

ワクチン接種拒否が増える主な要因はインターネットにあります。「COVID-19はただの風邪」「ワクチンを接種すると2年以内に死亡する」といった科学的根拠のないデマ情報がSNSなどを通じて周知されているため、ワクチン接種を拒否する人が増えているのです。

■社会がワクチン接種を推進する理由

社会がワクチン接種を進めるのは集団免疫を実現するためです。現在、国内外の社会ではCOVID-19の爆発的な感染拡大を抑える必要性から、さまざまな規制が設けられています。

マスクの着用や3密の回避、飲食店の営業時間短縮など、私権の制限や生活様式の変更を余儀なくされているのです。

集団免役が実現されれば、暮らしをCOVID-19以前に戻すことができます。マスクなしで電車に乗ったり、夜遅くに友人とお酒を酌み交わしたりできるようになるはずです。暮らしの復旧は経済の再興を意味します。

外食店がしばしばとりあげられますが、旅行業や交通系、エンタメ産業など、COVID-19により大打撃を受けている業種は多々あります。当然、そういった産業に従事していた人たちは職を失ったり収入が大幅に減ったりというダメージを受けています。

安全性が完全に確認されていない中でも政府がワクチン接種を急ぐのは、集団免疫の実現により、そういった問題を解決できる、と考えているためです。

■ワクチン拒否派の権利はどこまで守られるべきか?

とはいえ、政府が目指している方針に反対する権利は日本国内において、確立されています。言論封殺を主張する人たちもいますが、「ワクチンを打つな」と大声で叫んでも逮捕されるわけではありません。

反対派が主張する問題点の一つにワクチンパスポートがあります。いわゆる接種証明書が今後、さまざまな施設への入場や利用に際して必要になるのではないか、との懸念を反対は示しています。

実際に外食店などが入店の条件として接種券の提示を求めるケースは今後あるでしょう。接種を拒否した人は入店できないので、「自由なはずの選択」により一定の不利益を被るのは事実です。

そういった事態についてはすでに、自由の制限や権利の侵害に当たる、と主張する声があります。

■緊急時における「フェイルセーフの自由」

ワクチンパスポートが一定の差別につながるのは事実です。ただし、状況に応じて行われる差別は必ずしも非難されるべき悪ではありません。

COVID-19に感染しても重症化するのは60人に1人程度と割合が小さいので、危機感を持つ人はまだ少ないようです。しかしながら、実際には入院を必要とする人が急増しており、医療機関がパンクしかねない状況です。

妊婦の方が受け入れ先を見つけられず子供を死産した、というニュースが報じられましたが、医療がパンクして機能不全に陥ったら、これまで当たり前のように受けてきた医療を受けられなくなります。

心臓や脳の病気、交通事故など一刻を争うトラブルが生じたのに受診できる病院がない、という事態がすでに起きています。

このことを認識すれば、医療を守り、社会を守るために私権をある程度制限するのはやむを得ない、という考えに賛同する人がもっと増えるはずです。

一部にはワクチンの効果を疑う声やCOVID-19は恐い病気ではない、とする声もあります。実際、まだまだ世界中で研究が進められている段階なので、誰も確かなことを言えないのは事実です。

ただ、危機に際しては「フェイルセーフ(たとえ間違っていても安全な方向に向かうこと)」に基づいて、施策を検討する必要があります。

外食店の店主がワクチンが有効でありCOVID-19は恐い病気である、と考えて行動すれば、万が一ワクチンにあまり効果がなく、COVID-19がそれほど危険な病気でないとわかった場合も大きな健康被害は発生しません。

一方、ワクチンには効果がないしCOVID-19は恐い病気ではない、という情報を選択した店主はワクチンを接種せずマスクを外して接客するでしょう。その場合、もしも間違っていたら、本人はもちろん、お客さんやその家族までが感染して苦しむことになります。

社会全体のリスクの引き下げにつながるのは、前者の考えなのです。緊急時に得られる情報があいまいな場合、フェイルセーフを選択するのが賢明であり、そのために私権がある程度制限されるのはいたしかたのないことだと言えます。

■まとめ

COVID-19を巡ってはさまざまな情報が錯綜しており、感情をもとに選択をする人も少なくありません。健康や安全に関する情報は今も、日々更新されているので、絶対に正しいことは実は少ないのです。

そんな中、理性に基づいて行動するためには、今回紹介したような論理的な考え方に徹する必要があります。

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