コラム

国内外で待望されてきた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬をイギリス当局が承認しました。経口投与で重症化リスクを約半分に抑える、と報告されているこの薬について、この記事では解説します。

■モルヌピラビルをイギリスが承認

イギリスの医薬品・医療製品規制庁(MHRA)が世界に先駆けて承認したのはメルク社が開発したモルヌピラビルという薬です。インフルエンザにおけるタミフルと同じく、経口投与することで、重症化を抑えられると報告されています。

この薬は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の複製を妨げることで、ウイルスの増殖を防ぐものです。

軽症・中等症の患者に投与した第三層治験において、プラセボ(偽薬)投与群に比べ、重症化リスクを半減する効果が出たと報告されています。

日本政府も160万回分を提供するという合意をメルク社から得たと発表しており、国内でも今後、治療における大きな選択肢の一つになる可能性があります。

■危険因子群にも有効 有害事象はプラセボ群と同じ

メルク社が行った治験の対象となったのは発症から5日目以内で症状は軽症もしくは中等症、さらに一つ以上の危険因子を持つ患者です。治験に参加した患者は2つのグループに分けられ、一方にはモルヌピラビルがもう一方にはプラセボが1日2回、5日間にわたって投与されました。

その後、それぞれの群を比較したところ、プラセボ群の重症化率が14.1%だったのに対し、モルヌピラビル群の重症化率は7.3%にとどまりました。モルヌピラビルを投与された群では重症化するリスクが約半分に抑えられたのです。

この効果は危険因子により影響されませんでした。また、デルタ株やミュー株といった変異株にも同等の効果があったと報告されています。

治験では有害事象についてもモルヌピラビル群とプラセボ群の比較が行われましたが、両者について有意差は確認されませんでした。対象者数がまだ少ない段階でのデータですが、副作用のリスクは見られなかった、と現状では判断できます。

■ゲームチェンジャーになるには検査体制が必須

モルヌピラビルの特徴は「飲むだけで効く」という使い勝手のよさにあります。COVID-19については抗体カクテル療法などがすでに導入されていますが、こちらは入院しての点滴が必要なので、治療を行うためには医療資源に余裕が必要です。

インフルエンザにおけるタミフルのように処方するだけでよければ、医療資源を圧迫することなく、患者を治療できます。

ただし、現場の医師からは「実際には使えないのではないか」という声もあります。モルヌピラビルはウイルスの増殖を抑える薬なので、体内のウイルス量がピークになる前に飲む必要があります。

今回の治験でも参加者を発症から5日目までのCOVID-19患者に限ったのはそのためです。COVID-19かどうかの検査は現状、地域によっては手軽に受けられません。

軽症患者の場合、「なんとなく体調がおかしい」などと思っているうちにタイムリミットを過ぎてしまうこともあるため、どの程度役立つかは不透明です。

モルヌピラビルを有効活用するためにはPCR検査の体制を今よりも大きく拡充する必要があります。

■課題の後遺症対策はまだこれから

この薬にはさらに、後遺症には効かない、という注意点もあります。後遺症はウイルスが体内から消えた後も残ります。そのため、ウイルスの複製を防ぐモルヌピラビルを服用しても、直接的には後遺症を抑えられません。

ただ、後遺症の症状については、重症化の度合いとリンクしていることが統計的にわかっているので、発症直後に服用できれば、重症化を防いで後遺症の発症リスクを抑えられる可能性はあります。その点については、今後、研究を重ねる必要がありそうです。

■まとめ

手軽に使える経口投与の薬が普及すれば、COVID-19の危険性はインフルエンザに近いものになります。ただし、有効利用するためには検査体制の拡充が重要なので、国内でモルヌピラビルがCOVID-19を抑える役に立つのはまだかなり先になるものと考えられます。

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