同じように働いているはずなのに、優れたアイディアを連発する人やしんどい仕事を楽々こなす人がいます。実は彼らは特別な人ではありません。脳のはたらきを理解して、オフにあることをすれば、多くの人が同じようなパフォーマンスを発揮できるようになります。
◆集中力を高めるためにはストレスが必要
仕事のパフォーマンスは集中力に影響されます。脳は通常、いろいろな情報を受け取って処理しています。いわば、メモリやCPUのリソースをさまざまな案件の処理に振り分けているのです。
ですから、優先順位が低い案件の処理を一時的に止め、自身の持つリソースを一点に集中できれば、解決能力は飛躍的にアップします。そのカギになるのはストレスです。ストレスがかかることで、脳内ではノルアドレナリンと呼ばれるホルモンが分泌されます。
ノルアドレナリンには交感神経を活発化させて、心身の緊張感を高めると同時に、やる気や集中力を高めるはたらきがあります。たとえば、大きな仕事のプレゼンテーションを行うときには、多くの人が強い緊張を感じます。
この時、脳内ではノルアドレナリンが大量に分泌されているのです。適度な緊張により、やるべきことに意識が集中するため「お腹が空いた」と感じたり「帰宅したらお気に入りのドラマを見よう」などと考えたりはしません。
ただし、ノルアドレナリンによる緊張には脳への負担が大きいため、すぐに疲労がたまってしまい、高いパフォーマンスを長時間維持できない、という問題があります。
◆あれもこれも脳にとっては同じストレス
よく、「ストレスがきつくて……」などと言いますが、そもそもストレスってなんなのでしょう? 人の身体は外部からの刺激に反応して、緊張したりリラックスしたりします。この、外部刺激によって緊張している状態がストレスです。
「ノルマを達成できなくて上司に叱責された」「夫が家事を手伝わない」といった仕事や家庭など社会的な要因による緊張だけをストレスとして取り上げているのをよく見かけますが、それだけではありません。
寒暖や騒音、病気やけがなどさまざまな要因がストレスの原因になります。「寝室が暑すぎて寝苦しかった」「朝から頭痛がひどい」などの刺激も脳にとっては同じくストレスをもたらす要因なのです。
そのため、要因が何であってもストレスは同様にカウントされます。「ノルマを達成できなくて上司に叱られた夜、寝室のエアコンがあまり効かず酷く寝苦しかった」となると、その分ストレスが重なります。
人の脳には一定までのストレスに耐える能力がありますが、そんな風にストレスが重なると、容易にキャパを超えてしまいます。
◆適度なストレスに耐えると脳のストレス耐性が高くなる
他人から見ると「よくあれで倒れないな」というレベルのストレスに耐えている人もいれば、小さなトラブルですぐに精神のバランスや体調を崩してしまう人もいます。ストレスに耐える脳力は人によって大きく異なるのです。
生まれつきや育ちもありますが、ストレス耐性は意識的に鍛えることもできます。脳はよく筋肉にたとえられます。筋肉は繰り返し負荷をかけることで強化できます。脳も同じく、適度なストレスをかけ、それに耐える訓練を積むことで、少しずつ強くなりパフォーマンスがアップします。
スポーツなどで厳しい練習に耐えた選手が高いパフォーマンスを発揮するのは、筋力や運動神経が発達するのと同時に、ストレス耐性も高くなるためです。
より高い集中力をより長く持続できるようになるため、仕事の脳力を高めるための勉強や訓練の効率が高くなり、できる仕事のレベルや量がどんどんアップしていきます。
◆できるビジネスマンはオフの自分を甘やかす
前述した通り、人が耐えられるストレスの容量には限界があります。ですから、ストレスがかかる仕事に取りかかる前には、ゼロストレスの状態が理想です。
月曜日にややこしいクライアントと交渉するのなら、週末にストレスをなくすようつとめてください。妻の実家に手伝いに行く、といった雑事に忙殺された人と、大好きな釣りに出かけた人では、脳力が同じならパフォーマンスには大きな差が出ます。
1990年代に社会心理学者のロイ・バウマイスター博士が行った実験では、ストレスを抱えた状態の人とストレスがない状態の人では、難しい問題を解こうとチャレンジする時間に大きな差があったと報告されています。ストレスを抱えている人に比べ、ストレスのない人は2倍以上の時間、頑張ったのです。
ストレスがかかるイベントは訓練としては役立ちますが、大一番の前にやってはいけないことがわかります。野球にたとえるなら、当番日の前日に100球以上全力で投げたピッチャーは試合当日は疲労でまともな球を投げられないでしょう。
ビジネスマンも同じです。大きなストレスがかかるとわかっている仕事に挑む前には、意図的に自分を甘やかすことを試してみてください。
それと同じで、状況によって自身が抱えるストレスをコントロールする工夫がパフォーマンスアップには必要なのです。
◆まとめ
健康を害するものとして語られることが多いストレスですが、人が健康に生きていく上で欠かせないものでもあります。ストレスがあるからこそ人は成長し、より優れた業績をあげられるのです。
ストレスをうまく利用し、ときには避けることでストレスに強い脳を作り、仕事におけるパフォーマンスをより向上させられます。