コラム

若いころに比べ、新しいことを覚えるのが難しくなった――そんな風に感じている人は少なくないはず。

ドッグイヤーと呼ばれるほど、社会の変化が加速している昨今、記憶力はビジネスにおけるもっとも重要なスキルです。今回は最新の医学研究に基づいて、中高年でもそんな記憶力を強化できる方法を紹介します。

■記憶力はもっとも重要なビジネススキル

大卒の新人ではなく、ビジネス経験を積んだ人を採るヘッドハンティングが国内でも増えています。その背景にあるのは経験値に対する評価です。

特定の分野において成果をあげてきたビジネスマンは貴重な経験値を持っているので、引き抜くことで即戦力として活躍するだろう、と企業は期待し、場合によっては高額の報酬を約束してでも採用するのです。

経験値とは主に習得した知識を指します。ビジネスにおいてはさまざまな手法や手続き、慣行、外国語などの知識が成果につながります。最近では、ドッグイヤーと呼ばれるほどビジネス環境が高速で変遷しているので、新しい知識を絶えず習得する能力ができるビジネスマンには求められます。

短期記憶を効率よく長期記憶に定着する能力がこれまでになく重要視されているのです。

■18歳前後でピークを迎える記憶力

ところが残念なことに、記憶力はほとんどの場合、18歳前後でピークを迎えます。異説はありますが、年齢を重ねるごとに新しいことを覚えるのが難しくなってきた、と感じる人は少なくないはず。

高校生や大学生のころなら簡単に覚えられたことが、中高年になるとなかなか記憶として定着しません。

ただし、記憶力が低下したからといって、新たな知識を習得できなくなったわけではありません。実際、60代以上で外国語を習得したり、資格を取ったりする人は珍しくありません。

効率よくものごとを記憶する手法はいくつかあるので、そういったやり方を駆使すれば、脳力が低下した分を補えるのです。特に、記憶の仕組みを医学的に理解しておけば、自分に合う記憶術を仕事や生活のスタイルに合わせて実践できます。

■明らかになった記憶力とインスリンの関係

なにかを記憶するのは脳の高度なはたらきだと感じられるかもしれませんが、実はそうではありません。人がものごとを覚える仕組みは、昆虫などかなり原始的な生物と共通している部分が大きいのです。

たとえば、ショウジョウバエにあるニオイを嗅がせた後で電気ショックを与える、ということを何度か繰り返すと、ショウジョウバエは「特定のニオイがすると嫌なことが起きる」と記憶します。

回数が少ない段階では、ショウジョウバエはニオイと電気ショックの関係をすぐに忘れますが、回数を重ねると、翌日になっても「特定のニオイがすると嫌なことが起きる」と覚えています。

ワーキングメモリに入っていた情報が長期記憶として脳に移管されるのです。この時、ショウジョウバエの脳では「短期記憶を長期記憶にするための遺伝子発現」が行われます。CRTCという酵素が細胞の核にはたらきかけることで、記憶の定着が起きるのです。

面白いことに、このCRTCのはたらきは空腹時と満腹時では大きく異なります。空腹時には活性が高く、満腹時には活性が低下します。インスリンにより活性を抑えられる性質があるので、体内のインスリン値が低い空腹時にはよくはたらき、満腹になってインスリン値が高くなると、はたらきが低下するのです。

つまり、空腹時には記憶力が高まり、お腹がいっぱいの時にはものごとを覚えにくくなります。昔から、「勉強は食事の前にするのがいい」と言われるのは、そういった記憶力の変化を体感していたためでしょう。

■カギになるのは寝る前の習慣と早起き

前述した記憶力の仕組みを活かす活動に最近流行の「朝活」があります。朝、起きてから数時間はもっとも頭がよくはたらく時間帯なので、その間に勉強したり重要な仕事のことを考えたりするのが「朝活」です。

睡眠中は食事をとらないので、朝はインスリン値が低めです。朝食を取る前に勉強や仕事をすれば、高まっている記憶力を活用できます。「朝活」は記憶の仕組みにかなう取り組みと言えます。

そんな朝の勉強効果をより高めるためには2つの工夫が有効です。1つは睡眠の質を上げること。脳は日中、大量の情報に接し、それらを処理します。睡眠には脳に溜まった雑多な情報をクリアする作用があるので、朝は新たに情報を入れやすいのです。

脳のその機能をしっかりはたらかせるためには質のよい十分な睡眠が必要なので、寝室の環境を整えたり、寝る前にスマホを見ないよう心がけたりすることで、良質な睡眠をとれるよう、心がけることが大切です。

朝活の効率を上げるもう1つのポイントは就寝の前には夜食等をとらないこと。起床時のインスリン値を抑えるためには、朝、空腹でなければなりません。夜食をとると、十分にインスリン値が下がらないので、記憶の定着が弱くなります。

■まとめ

記憶力と空腹には強い関係性があるのは、生存するための必要性によります。「○○に行くと木の実が採れた」「××をすれば獲物が獲れた」といった記憶は生きるためにとても重要なので、お腹が空いているときには特に、記憶に刻まれるようになっているのです。

現代社会では空腹が命の危険につながるケースはまれですが、長い歴史の中でセッティングされてきた機能とうまく付き合うことで、ビジネスの世界における生存の確率をアップできます。

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