中咽頭がんの治療を終えて復帰したお笑いコンビ「ペナルティ」のワッキーさん(48)が話題になっています。近年は同様にがんを克服して日常生活に戻る「がんサバイバー」が増えていると言われます。

コロナ禍の中、日常に不安や不便を感じることが多い「がんサバイバー」のリアルを本コラムでは解説します。

■医学の進歩で増加している「がんサバイバー」

がんはありふれた病気であり、国内では2人に1人が罹患します。近年は死因の第1位にランクされており、命を落とすこともある危険な病気でもあります。

ただ、最近では有効な治療法が確立されてきたことから、治るケースも増えています。オプジーボなどの免疫チェックポイント阻害剤が効果を発揮するがんでは、末期からでも助かるケースが見られるほどです。

そのため、最新の5年生存率は62.1%にのぼります。がんと診断されても6割以上の人が5年以上生存できるのです。

がんから復帰した人を「がんサバイバー」と呼びますが、2015年時点で国内に533万人いると推計されました。それから6年たった現在、「がんサバイバー」はさらに増加していると考えられます。

国民の20人に1人以上が「がんサバイバー」という時代を迎えているのです。

■肉体的、精神的にはハンデを抱えているケースも

がん治療には主に手術、放射線、化学療法という3つのやり方があります。これらを組み合わせることで、最近では高い確率でがんを治せるようになりました。

身体の中からがんが消えれば、がん治療は成功したと言えます。ただし、治療に成功したケースでも、さまざまな障害が残ることがあります。

後遺症が発生する主な要因がん治療にあります。抗がん剤の副作用で身体に大きなダメージを生じるケースがあることはよく知られています。手術についても痛みが残るケースがある他、切除した部位ややり方によっては癒着や閉塞、機能障害などの問題が発生します。

放射線治療においても倦怠感や疲労感、食欲不振、皮膚機能の異常などの副作用が治療終了後も残ることもあります。

がんサバイバーにとってさらに大きな問題となるのが再発に対する不安感です。再発のリスクはがんの種類やステージによって異なります。たとえば、大腸がんの場合、ステージⅠの段階であれば再発率は6%ですが、ステージⅢになると32%に跳ね上がります。

3人に1人が再発するわけですから、治療に成功して退院した後も、大腸がんを経験したがんサバイバーは「次の検査では再発が見つかるのでは」という不安を抱えて過ごすことになるのです。

不安により抑うつ状態になる人も多く、がんサバイバーにとってはうつなど精神的な問題に対する対処が非常に重要です。

■厳しい職場復帰と収入の維持

がん患者の3人に1人は20~64歳で発症しています。一般に就労している年齢ですが、がんにより身体的な能力が低下したり、精神的に不安定になったりすると、以前と同じように働くのが難しくなります。

また、周囲の人たちからも「元と同じように働くのは無理だろう」と見なされることが多いため、配置転換されたり職を失ってしまったりすることも珍しくありません。

「がんサバイバーの就業状況,収入の変化に関する経験の実態と QOL・心の健康との関連」清水佐智子(鹿児島大学医学部 保健学科 看護学専攻)によると、働いていたがんサバイバーのうち、就業状況が変化した人は男性で46%、女性で27%にのぼっています。

※「がんサバイバーの就業状況,収入の変化に関する経験の実態と QOL・心の健康との関連」記載データを元に作成(複数回答)

働き方が変われば、収入も変化します。前述の研究によると、がんサバイバーのうち、男性では44%、女性では36%が収入が減ったと回答。200万円以上という大幅ダウンを経験した人も男性では12%もいます。

がんは身体的な問題をもたらすだけでなく、患者に対して経済的にも大きなダメージを与える病気なのです。

※「がんサバイバーの就業状況,収入の変化に関する経験の実態と QOL・心の健康との関連」記載データを元に作成

■それでも働くことで高まる幸福感

後遺症などのハンデを抱えて職場復帰をするのは簡単ではありません。すぐに疲れてしまったり、集中力が維持できなかったりすると、がんになる以前と同様の能力を発揮するのは難しいでしょう。

がんサバイバーが働く職場では、そういった仕事の効率面に加え、「本人のためにも仕事をさせるべきなのか?」という葛藤が生まれがちです。

ただ、これについて前述の研究では興味深い結果が報告されています。がんサバイバーのうち、男性では働いている人の方が幸福だと報告する割合が高いのです。

働いている人の幸福感(自己申告)を比べた場合、がんに罹患していない人よりもがんになった人の方が高い、という結果が男性においては現れました。

女性についてこの傾向は見られなかったので、やはり家計を担う稼ぎ手として、存在意義を示せることが、がんサバイバーにおいては大きな意味を持つものと考えられます。

■まとめ

がん治療の後遺症は新型コロナウイルス感染症が重症化する要因の一つです。ただでさえ多くの問題や不安を抱えている人が多いがんサバイバーにとって、現下の状況は非常に厳しいものでしょう。

ただ、働くことが幸福につながる面は大きいので、職場の感染予防をより充実させるなど、社会全体ががんサバイバーとの共存をより強く意識することが求められています。

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