コラム

新型コロナウイルス感染症の死亡率は国によって大きく異なります。特に人口100万人あたりの死亡率には大きな差があり、日本は特に低いため、海外から注目が集まっています。

原因はまだよくわかっていませんが、大きな要因の一つと考えられているのが「清潔文化」です。

ジャパンパラドックス 日本の死亡率はなぜ低いのか?

新型コロナウイルスの感染を抑えるために各国政府がとった対策はさまざまです。アメリカやフランスなどのように罰金等の刑事罰をともなう強制的な規制を導入した国がある一方、日本やスウェーデンのように比較的緩い規制にとどめた国も見られます。

規制措置がとられてから一定の期間が経過し、各国の対応について評価が集まる中、海外から注目を集めているのが日本です。先進各国や隣国である韓国などと比べ、日本はPCR検査についても消極的だったため、これまで内外のマスコミ等から批判的に報じられるケースが少なくありませんでした。

ところが、5月21日時点の死亡率(人口100万人あたり)は6.14人となっています。イタリアの534.72人、イギリスの525.94人、フランスの430.99人、アメリカ282.29人などと比べて、二桁も低い数字です。

初期から大量のPCR検査を行うことで新型コロナウイルス感染の押さえ込みに大成功したと言われている韓国の5.72人とほぼ同等の数字であり、結果だけを見れば「成功」と言えそうです。

詳細には相違点もあるので、単純に比較はできませんが、同様に「緩い対応」をとったスウェーデンの死亡率は379.33人にのぼっており、日本の60倍以上という高さです。

ロックダウンなどの厳しい規制を敷かなかったにもかかわらず、日本だけなぜ死亡者が少ないのか? 海外ではこの謎を「ジャパンパラドックス」と呼び、原因を探る動きが見られます。

遺伝? BCG? 注目を集める3つの説

ジャパンパラドックスの要因として、いろいろな可能性が指摘される中、有力と考えられている説は主に3つあります。

①遺伝的要因説:重症化に関係する遺伝的な特性があるのでは、との考えから慶応大学などの大学や研究機関が共同でタスクフォースを立ち上げています。

②BCG説:BCGワクチンを定期接種している国とそうでない国では死亡数に大きな違いがある、という論文が発表されたことから、関係性が注目されています。

③生活習慣説:清潔にこだわる日本人の生活習慣がコロナウイルスの感染拡大を抑えている、という説です。

このうちのどれがジャパンパラドックスにどのくらい影響しているのかは不明ですが、③については一定の抑止効果がある、と考えて間違いはないでしょう。

手洗い・マスクetc 世界的に珍しい清潔文化

清潔に対するこだわりはその国の経済的な発展度合いと地理や歴史にもとづく文化によって異なります。このうち、経済はわかりやすい要因です。経済的に一定以上の余裕がなければ、上下水道など清潔な環境を維持することができません。

先進国では滅多に蔓延しない感染症が発展途上国ではいまだに多く見られるのは主に、経済的な事情によります。インフラがなければ、清潔にこだわりたくてもこだわれないのです。

一方、文化的な影響はもう少し事情が複雑で、その国の地理的な事情や歴史的な背景により形作られます。たとえば、日本は地理的に降水量が多い上、国土の大半は山林です。山に降った雨がいったん森林でろ過された後、一気に海まで流れ下るため、昔からきれいな水を大量に確保できました。

人がたくさん暮らす都市部でも、きれいな水をそれこそ「湯水のように」使うことができたので、身体はもちろん、食器や衣類など、普段使うものも容易に洗えたのです。

そういった環境にある国はあまり多くありません。たとえば、地域によっても異なりますが、欧州の国々の降雨量は一般に日本よりもかなり少なめです。また、川の流域が広いため、各地の汚れが流れ込んでしまうので、中・下流域の水質はどうしても悪くなります。

し尿の処理についても、パリやロンドンといった大都市では「家の窓から街路に捨てる」という処理方法が一般的でした。日本では古くから、江戸や大坂、京都など大都市圏のし尿を農家が肥料として回収するシステムが機能していたため、下水道が整備される前から、清潔が保たれていました。

そういった、地理的、歴史的な背景を受けて、日本には世界でも類を見ない清潔文化が根付いてきたのです。

今回、新型コロナウイルス感染の予防策として、手洗いやマスク着用が推奨されています。国内ではそれ以前から、習慣としてある程度受け入れられてきたため、海外に比べて徹底できているものと考えられます。

清潔文化の輸出には大きなチャンスが

世界的にまだまだ新型コロナウイルス感染症が広がり続けている中、ワクチンや治療薬の開発が急がれています。もちろん、そういった対策が1日も早く確立され、世界中に普及することが望まれますが、技術的に完成して世界中に供給されるようになるまでには、まだまだ時間がかかります。

副作用等のリスクを検証する時間も必要なので、最短でも1年程度はかかるというのが、多くの専門家の意見です。

一方、清潔文化の普及には大きな副作用はありません。ジャパンパラドックスの要因はまだ解明されていませんが、その一つと考えられている日本の清潔文化を海外に向けて積極的に紹介することには大きな意味があると言えます。

もちろん、文化の普及も簡単ではありません。海外に進出している外食チェーンの経営陣を取材した際には、「日本人と同等の清潔へのこだわりを持ってもらうためにはかなりの労力がかかる」と聞いたことがあります。

ただ、命の危機が迫っている状況であれば、積極的に取り入れてもらいやすいはずです。災いの中で世界に貢献できることの一つとして、私たちは清潔文化の輸出を考えるべきかもしれません。

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