コラム

ED(勃起不全)治療薬として有名なバイアグラについて「認知症の予防・改善効果があるのではないか」とする研究結果をこのほどアメリカの研究機関が発表しました。

性的な活動が認知機能の向上につながる、という研究報告はこれまでにいくつもあります。高齢者の性が「健康な生」をもたらす可能性について、調べてみました。

■バイアグラにアルツハイマー予防・改善効果?

バイアグラはファイザー社が開発したED(勃起不全)の治療薬で、海綿体への血流を促進する作用により陰茎の勃起を促進します。

安全性が高く効果が強いことから、世界中で多くの人が愛用している薬剤ですが、もともとはEDの治療薬として開発されたものではありません。

狭心症の治療薬として臨床試験を進める中で、副作用として勃起を促進する効果が見つかったため、バイアグラはED治療薬として用いられるようになったのです。したがって現在でも、肺高血圧症などの治療に使われています。

そんなバイアグラについて、このほど「認知症の予防・改善に効くのでは?」という新たな研究結果が発表されました。アメリカの研究者らが行った調査により、バイアグラを服用している人はアルツハイマー型認知症を発症するリスクが服用していない人に比べ69%も低いことがわかったのです。

■タウタンパクの減少や神経細胞の成長促進も

この研究を行ったのはクリーブランド・クリニックの研究者らです。723万人分の医療請求データを解析した結果、バイアグラの処方を受けている人がアルツハイマー型認知症を発症するリスクは処方されていない人に比べ69%も低いことを発見したのです。

ただし、この結果だけでは、バイアグラを使用することでアルツハイマー型認知症を予防できる、とは断定できません。「バイアグラを使用するほど元気な人はもともとアルツハイマー型認知症になりにくいだけ」とも考えられるためです。

実際のところはどうなのか――今後の研究が待たれるところですが、バイアグラがアルツハイマー型認知症に効く可能性についてはいくつかの薬理効果が報告されています。

今回の実験でも、アルツハイマー型認知症患者から採取した脳細胞に対して、バイアグラの成分がどのようにはたらきかけるのかが試されました。

アルツハイマー型認知症は脳内の神経細胞が変質してしまうことで発症します。その原因の一つに、神経細胞内にあるタンパク質の過剰なリン酸化があります。

人の細胞は通常、ホルモンなどによる情報の伝達を受けると、リン酸化することで活性化します。これ自体は正常な機能なのですが、なんらかの原因により、脳の神経細胞においてタウタンパク質が過剰にリン酸化することがあります。

そうなると、神経細胞がダメージを受け、正常にはたらかなくなっていきます。今回、クリーブランド・クリニックで行われた研究では、バイアグラにこの過剰なリン酸化を抑える作用があることが確認されています。

アルツハイマー型認知症の予防につながる作用が見られたのです。

■性行為の維持で認知機能を維持できる

現在、バイアグラが処方される主な目的はもちろん、性的な能力の維持にあります。加齢とともに低下する男性器の機能を改善する効果が非常に高いのがこの薬の特徴です。

多くの研究により、性行為が認知症の予防や改善に役立つことが報告されています。たとえば、2017年にコベントリー大学とオックスフォード大学(イギリス)の研究者らが行った調査では、性交渉の頻度と認知力の関係性が示されました。

この研究では50~83歳の男女73人を対象に、性交渉の頻度を尋ね、認知能力のテストが行われました。その結果、週に1回以上性交渉を行っているグループは性交渉がないグループに比べて、認知能力が高いことがわかっています。

特に「言葉を流暢に扱う能力」や「空間を視認する能力」が高いことから、思考や行動をコントロールする能力やワーキングメモリーが高いレベルで維持されている、と考えられます。

性的な行為が認知機能の向上や維持につながる理由はいくつも考えられます。行為にいたる過程や行為において、さまざまな認知力を要すること。愛情を感じることで分泌されるオキシトシンに抗ストレス効果があること、など。

こういった効果により、脳の機能が活性化され認知機能が維持されるのだとしたら、性交渉をサポートするバイアグラにはやはり、認知症の予防や改善につながる大きな作用がある、と言えます。

■まとめ

生物にとって性的な営みは非常に大きな価値を持っています。種の存続を支える大切な行為だけに個体への影響も大きく、この記事で解説したように、認知機能の改善につながる可能性は高いでしょう。

ED治療薬として処方されるバイアグラは従来、性的な欲求をサポートする薬剤と認識されることが多く、知名度の割には価値を評価されてこなかった感があります。

今回、この記事で解説したように、認知機能を維持する効果があり、高齢者の健康を支えるはたらきもあるとしたら、従前とは別の角度からも評価する必要がありそうです。

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