「さざ波」発言が出たことでもわかる通り、国内における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者数や死亡者数は海外の多くの国に比べ、軽度にとどまってきました。

さまざまな特徴がその要因としてあげられ、「ファクターX」などと呼ばれていますが、新たに出現した変異株には効かない可能性が指摘されています。東京五輪により、国内に持ち込まれれば、これまでにない感染爆発が起きることも考えられます。

■最新の脅威デルタ株の患者が急増中

沖縄をのぞく9都道府県では6月20日に予定通り緊急事態宣言が解除されました。五輪まで1か月という段階で、とりあえず第4波を乗り切ったように見えますが、世界ではデルタ株と呼ばれる新たな変異株が新たな感染拡大を引き起こしています。

COVID-19の感染力は細胞の「カギ穴」であるACE2にとりつくスパイクタンパクのタイプに大きく影響されます。デルタ株ではこのスパイクタンパクを構成するアミノ酸がL452Rと呼ばれる変異を起こしたことで、感染力が従来型の約2倍にまで強まった、と言われます。

また、ワクチンの効果を抑えるはたらきもあるため、すでに多くの人が接種を済ませているイギリスでも、急激な感染拡大をもたらしています。ワクチンの効果により、一時はCOVID-19に打ち勝ったかに見えた同国ですが、感染の再拡大を受け、ロックダウンの延長を決めました。

同国の公衆衛生局(PHE)によると、イギリスで現在発生しているCOVID-19感染のほぼすべてがデルタ株によるものだと言います。WHOはすでに世界80の国や地域でデルタ株の感染者が見つかった、と発表しており、今後の展開が心配されます。

■デルタ株にはファクターXが効かない?

政治の対応がまずい、と言われる日本ですが、幸いなことに患者数・死亡者数とも世界の平均に比べると、かなり低い水準で推移してきました。

人口100万人あたりの死亡者数(2021年6月20日時点)を見ると、世界の平均が495.8人なのに対し、国内は1/4以下の113.6人にとどまっています。

感染者数・死亡者数が少ない要因は確定されていないため「ファクターX」などと呼ばれます。「清潔好きでルールを守る国民性」「COVID-19の発生源とされる中国に近いことから、これまでにも複数のコロナウイルスに接してきたため」などさまざまな説があります。

そんな中、有力な候補とされているのが「免疫細胞のタイプがCOVID-19にマッチしている」という説です。

 日本人の約6割は「HLA-A24」という細胞性免疫の型を持っています。東京大学医科学研究所のグループの発表によると、この「HLA-A24」には従来型のCOVID-19のスパイクタンパクを非常に強く認識する性質があるそうです。

体外から侵入してくるコロナウイルス(SARS-CoV-2)を見逃すことなく、排除する割合が高いため、日本人はCOVID-19感染者や重症化して死亡する人が少ないのです。

ところが、東京大学の同研究グループはこのたび、デルタ株には「HLA-A24」による識別をすり抜ける性質がある、と発表しました。つまり、デルタ株にはファクターXが効かない可能性が高いのです。

もちろん、「清潔好き」などのファクターはデルタ株に対しても有効ですが、細胞性免疫というアドバンテージが低下した場合、国内で今後パンデミックが起きるリスクはかなり高い、と考えるべきでしょう。

■デルタ株はワクチンの効果も従来型より低い

COVID-19対策の最右翼として世界中で期待を集めているのがワクチンです。国内ではファイザー社製、モデルナ社製が承認されており、すでに使用されています。それぞれ、「かなり高い効果がある」とされていますが、変異株に対する効果はまだ確定していません。

もちろん、断片的なデータは集まりつつあります。たとえば、イギリスの公衆衛生局はファイザー製について「症状の悪化による入院を回避する高い効果がある」と発表。2回の接種をすませた人はCOVID-19で入院するリスクを96%低減できる、と説明しています。

感染を防ぐ効果についてはスコットランドにおける研究で、「ワクチンは有効だが、従来型に比べてデルタ株への効果は低い」と報告されました。感染力が強いことと併せると、ワクチンを打っても感染してしまう人が今後は世界中で増えるものと考えられます。

国内では「ファクターXが効かない」という事情も重なるため、多くの人がワクチンを接種して集団免疫を実現できたとしても、COVID-19を効果的に抑えられない可能性もある、と認識しておく必要がありそうです。

■東京五輪が新たなパンデミックの起点になる

デルタ株の感染が急速に拡大する中、国内でもっとも危惧されるのは7月に開催予定の東京五輪が新たなパンデミックの起点になることでしょう。イギリスでデルタ株感染者が急増したのは渡航者の多さが原因、と同国の公衆衛生局が分析しています。

日本ではこれまで、海外との行き来を厳しく制限してきました。日本政府観光局の発表によると、2021年3月の訪日外国人数は1万2300人となっており、コロナ前の2019年同月に比べ、実に0.4%という少なさです。

ところが、東京五輪の開催に際しては、選手や大会関係者、メディア要員など約8万人が来日する予定です。五輪関係以外を含め、10万人近い人が世界中から訪日する中で、公表されている検査や隔離を完全な形で行える、とはとうてい考えられません。

実際には、世界中から一気にデルタ株をはじめとするさまざまな変異株が持ち込まれ、選手村等における接触で交叉的な感染が発生。多様な変異株が世界に向けて拡大する起点になる可能性が高い、と言わざるを得ません。

■まとめ

感染症予防の基本は起きるだろう出来事を想定して備えることにあります。東京五輪の開催により、デルタ株などの変異株が国内に持ち込まれる可能性はかなり高いと考えられるので、健康を守るためにはこれまで以上の対策を講じる必要があります。

ワクチン接種はその最右翼と言える対策です。従来型に比べて効果が低いとはいえ、重症化を抑えるはたらきが確認されているので、現状ではもっとも大きな効果を持つ対策です。

重症化を防ぐためには糖尿病や肥満、高血圧といった生活習慣病の改善も重要です。日常的に抗酸化、抗糖化を心がける意味がこれまで以上に高くなる、と言えそうです。

Categories: