ワクチン不要? この冬を安全に乗り切るカギはマスクにあり

Medical Life Science Laboratory

欧米など多くの地域で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が依然として猛威を振るっています。これまでで最大級の感染拡大が進行している国も多く、ワクチンなどの予防策に対するニーズがこれまで以上に高まりつつあります。

そんな中、マスクを着用することで、ワクチンに近い効果が得られる可能性がある、とする研究報告が注目を集めています。

■二転三転してきたマスクへの認識

COVID-19に対するマスクの効果については、これまでさまざまな情報が飛び交い、評価が二転三転してきました。COVID-19感染が拡大し始めた頃には世界保健機関(WHO)がマスクには感染を防ぐ効果がない、として着用を推奨しませんでした。

ところが、2020年6月に入り、爆発的な勢いで感染が広がり始めると一転、「マスクの着用を推奨する」とする指針を発表し現在に至ります。

アメリカでは国のトップであるトランプ大統領がマスクを着けずに公の場に出てくるなど、マスクを忌避する動きが長く見られました。着用の強制を自由の剥奪ととらえる国民性もありますが、マスクの効果が低く見積もられてきたこともその一因と言えます。

国内においてもマスクの着用に目を光らせるいわゆる「マスク警察」が現れた一方、SNS上では某実業家を初めとするインフルエンサーが再三「マスクは不要」という情報を流すなど、多くの混乱が見られました。

■判明! マスクには第三の効果があった

ここで、マスクの効果について整理しておきたいと思います。鼻や口を覆う安心感があるため、「着用により感染を防げる」と考えがちですが、一般的な不織布や布のマスクについてもっとも期待されてきた効果は「他人に感染を広げないこと」でした。

咳やくしゃみ、会話の際に出る飛沫を抑えることで、着用している人が持っているかもしれないウイルスが飛散するのを防ぐことが、マスクの主な役割と考えられてきたのです。

感染の予防効果については「ある程度効果がある」というのが適切な評価と言えます。他人が発する飛沫を直接吸い込むことはマスクによりかなり防ぐことができます。ただし、飛沫が乾燥してできる「ウイルスを含む微細な粒子」まではシャットアウトできません。

そのため、空気感染を防ぐ効果はあまり期待できない、と考えるべきですが、実はマスクにはもう一つ、大きな効果があることが最近になってわかってきました。マスクを着用することで、重症化するリスクを大幅に抑えられるのです。

■重症化のレベルはウイルスの量で決まる

COVID-19に感染しても多くの人は症状がまったく出ません。その一方、一定の割合で重症化する人がいますし、亡くなってしまう人もいます。これまで、そういった症状の差は基礎疾患や年齢、体質などによる、と考えられてきました。

しかしながら、COVID-19を含む感染症において、症状の重さを決め要素にはもう一つ、「体内に取り込んだウイルスの量」があります。

つまり、「ウイルスを含む飛沫を大量に吸い込んだ人」と「感染者がいる部屋で一定時間過ごした人」とでは両者共に感染したとしても、症状が大きく異なるのです。

前者は大量にウイルスを取り込んでしまっているため重症化するリスクが非常に高くなります。一方、後者が取り込んだウイルスの量は比較的少ないので、無症状もしくは軽症で終わる確率がかなり高いのです。

このことは一般社団法人集中治療医療安全競技会のホームページでも紹介されています。同サイトではCOVID-19と類似性が高い重症急性呼吸器症候群(Sars)と中東呼吸器症候群

(Mers)において、人が取り込んだウイルスの量と症状の重さには関係がある、と解説。

COVID-19にも同じ法則を適用できるかもしれない、というバーミンガム大学微生物学・感染学教授のウィレム・ヴァン・シャイク教授の考えを紹介しています。

■クルーズ船の比較でわかったマスクの効果

COVID-19に対するマスクの効果を示すエビデンスに「クルーズ船における無症状者の割合」があります。国内で最初にパンデミックの危機が意識されたのはダイヤモンドプリンセス号における感染拡大でした。

2020年2月、横浜に寄港した同船では、乗員乗客3,711人のうち634人がSARS-CoV-2に感染するというパンデミックが発生しました。この時はSARS-CoV-2についてわからないことが多く、対応が後手に回ったことから、大量のウイルスに被曝する乗員・乗客が少なくありませんでした。

その結果、無症状ですんだ人は少なく、京都大学総合生存学館の水本特定助教は無症状者の割合について17.9%と推定しています。

一方、同様のクルーズ船でも、乗員や乗客にいち早くマスクを着用させたケースでは無症状者の割合が非常に高くなりました。オーストラリアのマッコーリー大学に所属するクリスティーン・コックス氏らが発表したアルゼンチン発の客船では無症状者の割合が81%という高い割合にのぼっています。

同船はアルゼンチンを出発し、21日かけて南極半島を巡るクルーズ船ですが、出港8日目に発熱を訴える乗客が現れたため、乗客全員にサージカルマスクを乗客と接する乗員にはN95マスクを配布しました。

その結果、乗客・乗員217人のうち128人の感染が確認されましたが、無症状者が104人と8割を超えたのです。ダイヤモンドプリンセス号に比べ、無症状者の割合が4倍も多かったのはマスクの効果も大きいのではないか、と考えることができます。

■低用量の被曝でワクチンと同じ効果が期待できる

アルゼンチンの客船のケースでわかる通り、マスクはウイルス感染を高確率で防げるわけではありません。再三報じられている通り、マスクにはウイルスよりもはるかに大きな「すき間」が空いているため、100%シャットアウトするのは不可能です。

ただし、被曝する用量をかなり大幅に減らす効果はあります。このマスクによる低用量の被曝がワクチンと似た効果をもたらしているのではないか、とする専門家も見られます。

感染症を専門とするカリフォルニア大学サンフランシスコ校のモニカ・ガンディー医師はマスクにはコミュニティレベルの免疫力を高める効果がある、とする論文を発表しています。

多くの人が「無症状の感染」を通じて免疫を獲得すれば、社会全体がパンデミックへの耐性を備えることができる、というわけです。実際、日本や韓国、台湾など、いち早くマスク着用が普及した国では、重症化率が低下しています。

日本などの東アジア圏でCOVID-19患者が増大しない理由――「ファクターX」についてはさまざまな説が検討されていますが、「マスクによるワクチン効果」は説得力の大きな候補と言えそうです。

■まとめ

マスク着用についてはさまざまなトラブルが発生しています。中には私的・公的な着用の義務化は行きすぎ、という声もありますが、研究結果からは重症化を防ぐ効果が期待できるので、「自分のためにも社会のためにもなるべくなら着用した方がいい」というのが現状における賢明な判断と考えられます。

 

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