コラム

新型コロナウイルス感染症の対策として政府が発令した緊急事態宣言について、ここにきて一部解除や緩和の動きが見られるようになりました。感染リスクへの心配や医療崩壊を防ぎたいという観点から、緩和に対して否定的な声も聞こえてくる一方、緩和しなければ経済がもたない、との声も強く、議論がかみ合っていない感があります。

緩和を求める声と第2波のリスク

5月6日までとされていた緊急事態宣言は5月末までに延長されましたが、東京や大阪など13の都道府県以外については、自粛要請を緩和する方針が示されました。

今後も、国では新規の感染者数が減少するなど、感染がおさまる傾向が確認されれば、順次、緩和していく、としています。地域によっては独自の動きを見せる自治体もあり、大阪府では設定した基準をクリアすれば、国の判断を待たずに緩和する、と知事が明言しました。

ただ、緩和にはいったんおさまった感染が再度始まるリスクがつきまといます。北海道では新型コロナウイルス感染症患者の急増を受け、全国に先駆けて2月28日に知事が緊急事態宣言を発表。外出の自粛などを道民に求めたところ、いったんは新たな感染症患者の発生を抑えることに成功しました。

そのため、3月19日に緊急事態宣言を解除したのですが、4月初旬には再度、患者数が増え始め、4月23日には45人もの新規患者が確認されています。第1波の際に確認された1日あたりの新規患者数は15人が最多だったので、第2波ではその3倍もの患者数を記録したことになります。

それでも自粛緩和しないと死者が増えるという事実

ウイルスは人から人へと感染するものなので、流行を抑えるためには「人と人との接触を断つ」ことがもっとも有効です。ですから、外出規制や店舗の営業規制を効果が出るまで厳格に続けることが、感染症の予防だけを考えれば正解です。

ただし、それでは企業や家庭の経済的ダメージが非常に大きくなります。東京商工リサーチの調べによると、感染拡大を受けて倒産した企業が5月8日時点で128社にのぼるといいます。

宿泊業や飲食業、アパレル関連といったインバウンドの急減や外出自粛の影響をまともに受けた産業のダメージが目立つ状況ですが、今後は製造業など多様な業種に広がっていくものと考えられます。

経済のダメージとつながるのが自殺の件数です。日本はもともと自殺者が多いことで知られ、2019年も2万人弱と報告されています。ただし、国内で自殺者としてカウントされるのは遺書を書き残した人だけです。WHOでは変死者の半分を自殺者とする数え方を標準としており、そのやり方に従えば10万人前後になります。

人口あたりの自殺率を世界各国と比較しても、飛び抜けて高い数字であり、日本人は悩みや問題に直面すると死を選ぶ傾向が強い、と考える必要があります。

実際、バブル崩壊の影響が大きく出始めた1998年には、前年2万4391人だった自殺者が3万2863人と3割以上も急増しており、経済的な問題が死に直結する様子がうかがえます。

今回の新型コロナウイルス感染症については、バブル崩壊やリーマンショックなどを上回る経済的なダメージが発生する、と予想する声が小さくありません。経済への影響を軽視して感染症予防だけに注力すれば、大量の死亡者(自殺者)が出てしまうのは確実です。

各国で異なる対策とその結果

それでは、いったいどうするのが正解なのか? 国によって、考え方や方針には大きな違いが見られます。

韓国や台湾、ニュージーランドなど、早期に的確な対応ができた国は感染拡大を抑え込むのに成功しており、日常生活を取り戻しつつあります。

一方、対策が遅れた欧米諸国では、現在も大量の新規患者および死亡者が発生している状況です。それでも、経済的なダメージをこれ以上拡大するわけにはいかない、という事情から、フランスやスペイン、アメリカなどでは外出制限の緩和や解除へと方針を転換し始めています。

そんな中、独自路線を歩んでいるのがスウェーデンです。感染を抑えるのではなく、早めに国民の多くが感染することで集団免疫を獲得し、早期に蔓延を終わらせる、というやや乱暴な対策を選択。厳しい外出規制を敷かず、16歳未満の子供は学校に通う、といったかなり緩い対策をとっています。 

ただし、その結果、5月7日時点の新型コロナウイルス感染による死亡者は3000を超えており、死亡率もイタリアやアメリカを上回る12%という高さになりました。医療体制が整っている先進国でも、人の接触を抑える規制なしでは、パンデミックを防ぐのは難しい、という事実を教えてくれる反面教師がスウェーデンだと言えそうです。

再確認したい「健康」の定義

早々に的確な対策ができていればよかったけど、それができてないなら、感染が拡大して死亡者が増えるのは覚悟した上で、規制を緩和していくしかない――諸外国の例から見えてくるのは、そういった救いのない事実です。

実際に私たちはそれをする以外に道はなく、今、問われているのは「程度と速度をどうするか」ということでしょう。国内では移動や外出、店舗の営業などが法律で規制されているわけではないので、一人一人が考える必要があります。

「新型コロナウイルスに感染するのが恐いし、もしかして誰かを感染させるのも避けたいから、極力外出しない」

「仕事をして家計を守るためには、感染リスクを抑えながら、出勤したり、店を開けたりする必要がある」

などなど、選択は人それぞれでしょう。

判断の基準も人によって異なると思いますが、一つのヒントになるのが「健康」に対する考え方です。「健康」は人が幸福であるために必要ないちばんの条件なので、人が幸福を追求する際にはまず、健康であるためになにをするのがいいか、考えてみるのがおすすめです。

一般に健康は「病気でないこと」だと思われがちです。だとすれば、感染を防ぐことがもっとも大切、ということになりますが、実際には健康はもっと幅広い価値を網羅するものと最近では考えられています。

下記は世界保健機関(WHO)が発表している健康の定義です。

健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会訳)

いかがでしょう? これを基に考えるなら、もちろん感染を防ぐことは大切ですが、経済的な安心感もそれと並んで大切ですし、家族や友人たちとコミュニケーションをとることにも重要な意味があります。

もちろん、テレワークやWEBを使ったコミュニケーションを使えば、感染リスクを抑えられるので、そういった方法が第一の選択肢になるでしょう。

しかしながら、感染リスクを0に近づけるために、精神的、社会的な充実をすべて犠牲にするのは少なくとも健康の追求という面では適切ではない、と言えます。

どんな風にバランスをとるのがいいか――人によって考え方は違います。他人の考え方を認めつつ、妥協案を見つけ出すのは簡単ではありません。そんな中、「健康」という概念は誰かと議論をする際の共通の基盤になるのではないか、と思われます。

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