コラム

国内でもいよいよワクチン接種が始まり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)については収束の目処が立ってきた感があります。実際、100年前に世界中に蔓延したスペイン風邪はわずか3年で国内の多くの人が感染したことにより収束しました。

大半の人が抗体を持つようになったため、感染拡大が終わったのです。ワクチンにより多くの人が抗体を保有するようになればコロナを抑えられる――そんな期待が広がっていますが、実は抗体により重症化するケースもあり、予断を許しません。

■通常は抗体を持てば感染や重症化を抑えられる

抗体は免疫の基本とも言える物質です。特定の病原体に対して特定の抗体がはたらく「1対1」の関係で作用することで、感染を防いだり症状を抑えたりする強い効果を発揮します。

麻疹や水ぼうそうなどの病気にかかった人が、再感染しないのはそれぞれのウイルスに対する抗体が体内に作られるからです。また、インフルエンザを抑える目的でワクチン接種をするのも流行する時期の前に抗体を保有しておくためです。

インフルエンザワクチンの感染予防効果については60~70%程度とされており、感染を完全には防げませんが、重症化を抑える効果があるため、接種する意義は高いと考えられています。

■変異株にも効果が期待できる交叉免疫

抗体については「1対1」の関係が基本なので、変異すると効きにくくなるのではないか、という懸念があります。実際、インフルエンザウイルスには変異によって生じたさまざまなタイプがあります。

国内で毎年行われているワクチン接種では、「その年流行するだろうタイプ」をいくつか予想してワクチンを用意しているので、予想が外れると効果が想定を下回ることがあります。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は非常に速いペースで変異することがわかっており、イギリス型や南アフリカ型、ブラジル型など大きな変異を起こした株の存在が、すでに国内でも確認されています。

そのため、「ワクチンが効かないのではないか?」「一度感染した人が再感染するのではないか?」などと心配する声も少なくありません。

ただ、免疫には「交叉免疫」と呼ばれるはたらきがある、とも言われます。抗体を作る仕組みの中で免疫の司令塔としてはたらく「メモリーT細胞」は、類似するウイルスについて、共通の要素を認識することで変異株に感染した際も抗体の産生を促すのではないか、と考えられているのです。

「交叉免疫」が有効であれば、変異株に対しても免疫により感染予防や重症化の抑制が期待できるということです。

■真逆のリスク! 抗体があると重症化しやすい?

一方、抗体については「保有しているせいで症状が悪化するケース」もあることがわかっています。「抗体依存性感染増強」と呼ばれる作用で、ウイルス感染症であるデング熱などに見られる疾患です。

デング熱にはいくつかの型があり、ある型に感染すると、同じ型には二度と感染しません。ただ、別の型には感染することがあり、その際には抗体が作用することで、症状がより重くなるのです。

そのため「一度目の感染時に比べ、二度目の方が症状がひどかった」というケースが報告されています。

抗体依存性感染増強の仕組みはまだすべてが解明されたわけではありませんが、抗体の作用が中途半端だった場合に起きやすい、と言われています。

抗体との結合で活性を失わなかったウイルスが抗体とマクロファージが結びつく機能を利用して、免疫細胞に感染することでウイルスが効率的に増殖するのです。

COVID-19についても、再感染した際に重症化した患者がいると言われており、「抗体依存性感染増強」のリスクは想定しておく必要があります。

■抗体がどちらにはたらくかは個人差もあり不明

体内の抗体がウイルスを抑制するのか、重症化させるのかはいろいろな要素により決まります。免疫のバランスやその人の体質、抗体の量、感染したウイルスのタイプなど、非常に多様な要素が複雑に影響し合った結果、どちらにはたらくかが決まるので、予想するのは困難です。

現在はワクチン接種が推進されていますが、ワクチンは体内で擬似的な感染をもたらすことで、抗体の産生を促します。通常は実際の感染に比べて免疫の反応が弱いため、体内で産生される抗体の量が感染したSARS-CoV-2を抑えるのに十分ではないケースもあるでしょう。

そういった場合に「抗体依存性感染増強」が起きるリスクは当初から指摘されていました。COVID-19は免疫系への影響が強い病気だけに、そのリスクはある程度大きいかもしれない、と考えておく必要がありそうです。

■まとめ

感染症はこれまで、人口の一定割合が抗体を持つことで収束してきました。COVID-19についても現在は同様のストーリーが期待されていますが、「抗体依存性感染増強」が高頻度で起きるのであれば、その筋書きは崩れます。

東京五輪の開催や経済再興に向けた動きについても、抗体保有が解決策にならなかった場合用の「プランB」を政府・個人ともに用意しておく必要がありそうです。

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