世界中で新型コロナウイルス感染が広がる中、社会にもさまざまな影響が現れています。その一つとして国内外で注目されているのが「格差の拡大」です。
健康と収入には非常に大きな関係があります。新型コロナウイルスの蔓延を受け、収入の格差が健康の格差をもたらすことが、あらためて明らかになりつつあります。
新型コロナウイルスは「平等主義者」と呼ばれたが
ウイルスは基本的に感染する相手を選びません。資産家もそうでない人も平等に感染することから、感染が広がりつつある初期段階では「平等主義者」と呼ばれることもありました。
主に欧米で使われた呼び方ですが、感染者が増え死者が増加すると、平等主義者などではないことがわかってきました。そのことをもっとも端的に示しているのが人種ごとの死亡率です。
アメリカではいくつかの統計が発表されていますが、APM研究所が発表しているデータによると、黒人の死亡率は白人の2.6倍高く、アジア人と比べても2.3倍も高いといいます。
背景にあるのは経済的な格差です。アメリカの国勢調査を見ると、2017年時点で、もっとも年収が高い人種はアジア人(81331ドル)、次いで白人(68145ドル)となっています。
もっとも少ないのは黒人(40258ドル)であり、アジア人の半分にも届きません。日本のような国民皆保険制度がないアメリカでは、年収は病院の受診しやすさに大きく関係します。
その他にも、食生活や教育レベルにも影響するため、多くの国で収入と健康状態は
密接につながっています。
新型コロナウイルス感染症は糖尿病などの持病があると、重症化するリスクが極端に高くなることもあり、黒人の死亡率が高いのだと考えられます。平等主義者ではなく、「富める人に優しく、貧しい人には厳しいウイルス」なのです。
国内でも疾病と収入には大きな関係性
収入の差は国内でも健康状態において大きな差を生み出しています。20~40歳の2型糖尿病患者の年収を調査したデータ(暮らし、仕事と40歳以下2型糖尿病についての研究(MIN-IREN T2DMU40 Study)を見ると、世帯年収200万円未満のという人が約6割を占めており、600万円以上の人は1割程度しかいません。
年収200万円未満の世帯は全世帯の2割弱です。20~40歳ではそれよりやや多くなると思われますが、それでも糖尿病患者の過半数を占めている実態からは、所得と2型糖尿病が密接に関係していることがうかがえます。
保険制度が整っている日本国内では、収入にはあまり関係なく質の高い医療を受けることができます。ただ、年収は前述の通り、食生活や健康に対するリテラシーにつながるため、健康状態に影響するのです。
滋賀医科大学が発表した調査を見ると、炭水化物の摂取量と世帯収入には密接に関係することがわかります。年収が少ない層ほど、身体に取り入れているエネルギーにおける炭水化物の割合が多いのです。
肉や魚に比べて安価であり、手軽に食べられるものが多いため、手っ取り早く美味しさや満腹感を求めると、どうしても炭水化物の割合が増えてしまいます。

―国民健康・栄養調査対象者の疫学研究 NIPPON DATA2010 の結果より―」より
炭水化物は体内で糖に変換されエネルギーになる栄養素です。身体にとって大切な栄養素の一つですが、過剰になると細胞の糖化が起き、糖尿病など生活習慣病のリスクが高まります。
富裕層が必ずしも長生きではないという研究結果も
一方、富裕層が必ずしも長生きするわけではない、という研究結果もあります。コペンハーゲン大学の研究チームが発表した論文「平均寿命における不平等の測定における所得移動の役割」によると、それまで報告されていたよりも、収入による寿命の差は小さいと言います。
寿命の格差が抑えられるのは、世帯の所得が経年により変わっていくからです。低所得だった世帯が高所得になるケースやその逆は少なくありません。そのため、ある時点における貧富の差がその後の健康状態を決めるわけではないのです。
だからなんなのか……これまで並べてきた事実から結論を導き出すのは簡単ではありません。社会がもっと平等であるべきだ、という人もいるでしょうし、異なる結論にたどり着く人もいるでしょう。
私自身は収入と健康状態の悪化要因を切り離す方法が見えてくる結果だと考えます。すなわち、低所得の世帯であっても、たとえばハンバーガーやポテトチップスではなく豆腐や納豆、鶏胸肉などを積極的に食べれば、生活習慣病のリスクを引き下げることができます。
また、ここまでは収入が健康に与える影響について紹介してきましたが、病気になるとはたらき続けるのが難しくなるなど、健康状態が収入に与える影響はより直接的です。
健康を損なったために収入が低下し、さらに健康状態が悪化する……そんな悪循環に陥るケースは少なくありません。逆にいえば、健康状態を維持できれば、収入を改善できる可能性が高まります。
もちろん、物事はそれほど単純ではありませんが、そういう可能性を少しずつ高めることが生活の質を高める上で有効なのは間違いありません。