日本人にワクチンは不要? 死亡率が低いのは交叉免疫のおかげ?

Medical Life Science Laboratory

新型コロナウイルス感染症について、世界各国で深刻な被害が報じられる中、国内では死亡者数が非常に少ない状況が続いています。「ジャパンパラドックス」などと呼ばれる現象について、過去にかかった「別の風邪」により特殊な免疫反応が起きるおかげ、とする新たな説が注目を集めています。

■圧倒的に低い国内の死亡率

新型コロナウイルス感染症の死亡率には地域的な偏りがあります。日本の死亡率は非常に低く抑えられており、人口100万人あたりの死者数は7.73人(7月8日時点)にとどまっています。

同じく台湾0.29人、中国3.22人、韓国5.56人(いずれも7月8日時点)など、東アジアには死亡率の低い国が集中しています。欧米はベルギー843.51人、イギリス653.91、アメリカ169.75などとなっており、東アジア諸国の少なさが際立ちます。

世界の平均は69.78人ですから、日本はその1/10程度に抑えていることになります。マスメディアは新型コロナウイルス感染症のリスクを連日報じていますが、世界的に見ると、死亡リスクはかなり低いのが現状です。

■BCG? 遺伝子タイプ? さまざまな推測 

死亡率にここまで大きな差異が見られる以上、日本人や東アジアの人たちに共通する「重症化を防ぐ特性」がなにかあるはずです。日本人については下記のような要因が影響しているのではないか、とこれまで推測されてきました。

①BDGワクチンを接種しているため

日本を始め、韓国、台湾などでも国策としてBCGワクチンの接種を行っています。一方、ベルギーやイギリス、アメリカなどでは接種を行っておらず、その違いが新型コロナウイルス感染症の死亡率に影響している、と言われます。

BCGの予防接種については、もともとの対象である結核以外の感染症についても予防する効果(オフターゲット効果)があることが知られています。未知の病原体にも素早く対応する自然免疫系を強化するはたらきがあるため、新型コロナウイルスについても感染や重症化を防いでいる可能性があります。

②重症化しにくい遺伝的な特性があるため

遺伝的な個性は感染率や重症化率に関係します。たとえば、新型コロナウイルスが細胞に感染する際に利用するACE-2というレセプターが細胞膜に発現しやすい人とそうでない人では、感染のしやすさが異なります。

また、病原体を見分けるのに役立つHLA(ヒト白血球抗原)が異なれば、ウイルスを認識して攻撃する能力に差が出ます。

日本人は新型コロナウイルスに感染しにくく重症化しにくい遺伝的な特性を持っているのではないか、と考えられています。

③国民性として清潔を好みルールを遵守するため

日本人は世界でも屈指の「清潔好き」だと言われます。もともと、食事の前やトイレの後には手を洗う習慣がありましたし、屋内では靴を脱ぎます。気軽にキスやハグ、握手などの肉体的接触をする習慣がないのも欧米とは異なります。

また、ルールの遵守にも厳しいところがあります。自身はもちろん、他人が守っているかどうかを細かくチェックし、守るようプレッシャーをかける傾向が強いので、感染につながる行動をする人はかなり少数です。

■東京大学の児玉教授らが交叉免疫説

前述のような説が語られる中、東京大学先端科学技術研究センター名誉教授の児玉龍彦氏らが唱えているのが、「交叉免疫」により重症化が抑えられているという説です。

通常、あるウイルスを抑え込む抗体はそのウイルスに対してしか反応しないとされています。ただ、この免疫反応には一定の守備範囲があり、ある抗体が「本来の対象ではないが似ているウイルス」に対して有効にはたらくことがあります。これが交叉免疫です。

コロナウイルスにはさまざまな種類があり、一般的な季節性の風邪を引き起こすウイルスの中にも、4種類のコロナウイルスがあることが分かっています。

そういった「普通の風邪」をこれまで何度もひいてきた人は風邪を引き起こすコロナウイルスを抑える免疫の仕組みをすでに保有しています。新型コロナウイルスに対しても、その仕組みが有効にはたらくので、ウイルスを素早く抑えて、重症化するのを防げている、というのが児玉教授の発表した考えです。

■軽症ですんだ人では早くからIgG抗体

東京大学アイソトープ総合センター 児玉龍彦教授発表資料より引用

人の身体が作り出す抗体には実はいくつかの種類があり、それぞれ産生されるタイミングや役割が異なります。たとえば、あるウイルスに初めて感染した際にはまず、IgM抗体が作られます。

その後、ウイルスを抑える効果がさらに強いIgG抗体が作られることで、感染症は治癒に向かいます。新型コロナウイルスは人類が初めて出会うウイルスなので、感染した人の体内ではIgM抗体が増えた後にIgG抗体が増えるはずです。

ところが、児玉教授らが感染した患者の抗体を精密に測定する実験を行ったところ、多くの患者でIgG抗体が先に増加し、IgM抗体はあまり増えていないことがわかりました。IgM抗体が先に増えたのは患者のごく一部――重症化した患者だったのです。

■東アジアには中国南部由来のコロナウイルスが何度も伝播

この結果から、児玉教授らは日本人の多くで「交叉免疫」がはたらいている可能性を示唆しています。

日本を含む東アジアの各国にはこれまで、中国南部由来のコロナウイルスが何度も伝播してきました。一般的な風邪の原因となるコロナウイルスもそうですし、SARSやMERSといったウイルスも同じルートで広がりました。

それらのコロナウイルスと類似性が高いウイルスが他にも伝播していた可能性は高く、そういったコロナウイルスファミリーに繰り返し感染することで、東アジアの人たちには新型コロナウイルスに対する交叉免疫を保有している、というのが児玉教授の考えです。

交叉免疫の仕組みは世界中の研究者がワクチンによって実現しようとしているものと同じなので、もし児玉教授らの説が正しいなら、私たちはすでに「ワクチンを打ったのと同じ状態」だと考えられます。

一つの目標である集団免疫が実現されている、とすれば、その免疫を損なわないよう心身の状態を整えることが、withコロナの社会におけるもっとも大切な心得と言えそうです。

 

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