昼寝の習慣がある人は死亡率が高い――近年、そんな研究結果がいくつも発表されています。「昼寝は健康にいい」というのが最近の風潮であり、取り入れる職場も少なくありません。

詳しく調べてみると、昼寝はすればいい、というものではなく適切にとる必要があることがわかりました。

■「昼寝で健康」は誤りかもしれない

昼寝は健康にいい生活習慣とされています。国によっては多くの人が暮らしの中に取り入れており、スペインのようにシエスタと呼ばれる昼寝により労働時間が大幅に中断される国もあるほどです。

日本でも江戸時代などには昼寝の習慣があったと言われます。特に暑さが厳しい夏場は昼寝をすることで体力を温存したようです。

近年はそんな昼寝の習慣には心筋梗塞や脳梗塞のリスクを引き下げたり夜間の睡眠不足を補ったりする効果があることが判明。アメリカ航空宇宙局(NASA)が行った実験で認知能力や注意力がアップする効果が示されたことから、有名なIT系企業などでも採用するケースが増えています。

ところが、そんな昼寝について「健康リスクをアップする可能性あり」とする研究結果が、最近になって見られるようになりました。日本でも、「養生訓」で有名な貝原益軒がその害を説いています。

健康にいいのか悪いのか、少し丁寧に検証してみる必要がありそうです。

■昼寝で死亡リスクが30%も増大する?

昼寝と健康リスクについて端的に示す研究の一つにヨーロッパ心臓病学会で発表された論文があります。2020年に広州医科大学の研究者が報告したもので、その内容はかなり衝撃的です。

同研究では、1時間以上昼寝をする習慣がある人はそうでない人に比べ心血管疾患を発症するリスクが34%高く、死亡リスクは30%高いと報告されています。シエスタに心血管疾患を予防する効果がある、という既存の研究とは相反する結果が発表されたのです。

国内で行われた研究の中にも昼寝と健康リスクについて、ネガティブな結果を報告するものがあります。東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科の山田朋英氏らが2014年に発表した論文によると、1時間以上の昼寝習慣がある人は2型糖尿病を発症するリスクが45%も高いとされています。

その他、昼寝と健康の関係について、マイナスの影響を示唆する研究は複数あり、日中に睡眠をとることが大きなリスクにつながる可能性は無視できません。

■相関関係か因果関係かは不明

昼寝が健康リスクを増大させる原因はいくつか考えられます。その中でももっとも影響が大きそうなのは生活リズムが崩れること、でしょう。

人の身体は1日の中でリズムを刻んで変化します。朝になると目が覚め、夜になると眠くなるのはこの概日リズムによります。概日リズムを司るのは体内で分泌されるホルモンです。

たとえば、睡眠については朝日を浴びることで脳内にセロトニンが分泌されます。夜になるまでにこのセロトニンが睡眠を誘導するメラトニンというホルモンに変換されることで、自然に眠気を催し安眠できるのです。

昼寝をすることで、この睡眠のリズムが崩れるのは多くの人が体験していることです。日中に寝てしまうと本来眠るべき夜にメラトニンが足りなくなってしまうため、「寝付けない」「深く眠れない」などの睡眠障害が発生するのです。

また、長時間の昼寝により、運動不足に陥りカロリー消費が足りなくなることも昼寝がもたらすリスクの一つでしょう。カロリー摂取量を減らさない中で消費が減れば、肥満や糖尿病、高血圧などの弊害が容易に発生すると考えられます。

一方、昼寝と健康リスクについて「昼寝をすると健康を害する」という因果関係ではなく、「健康を害しやすい人は日中に眠気を催しやすい」という相関関係に過ぎない、という研究報告もあります。

日中に睡眠をとる頻度や時間の長さは主に個人の生活習慣により決まるとされてきました。夜間の睡眠が足りない人や休息を好む人が昼寝をすると考えられてきたのです。

ところが最近になって、昼寝の時間や頻度には先天的な要因――遺伝子情報が関係していることを米ハーバード大学の研究グループが報告しました。もともと、昼寝の習慣について双子を対象に行った調査では、遺伝性があることがわかっています。

ハーバード大学の研究グループはそういった結果に基づき、約50万人分のデータをもとに解析を行いました。その結果、覚醒を促すホルモン分泌に関係する遺伝子と肥満や高血圧、代謝など成人病に関係する遺伝子に一定の共通性があることが見つかりました。

遺伝的に覚醒を促すホルモン分泌が少ない人――昼寝しやすい人には、同じく遺伝的に生活習慣病になりやすい傾向がある、とわかったのです。

■夜の睡眠不足を日中に補うためには

これまで紹介してきた情報を整理すると、以下のようになります。

①昼寝が心血管疾患や脳血管疾患の予防につながり、作業効率や集中力を高める、という報告がある。

②その一方、1時間以上昼寝する人は心血管疾患のリスクや生活習慣病のリスクが

高く、死亡率も高い。

③昼寝と生活習慣病は遺伝的につながっている可能性がある。

 これらを踏まえて、健康的に昼寝をするために必要なのは「睡眠時間の限定」でしょう。すなわち、昼寝の時間を1時間以内に限れば、健康を害するリスクを心配することなく、健康増進や作業効率、集中力の向上など、プラスの効果が十分期待できることになります。

具体的には夜間の睡眠に影響が出ない時間にとどめ、昼寝については快適すぎる睡眠環境を設けないことが大切です。

■まとめ

睡眠は健康に影響する大きな要素です。夜間の睡眠時間を十分に確保できない場合、昼寝により補うことには意味があります。ただ、人の生活習慣において、もっとも大切なのは夜間の睡眠なので、そちらの質を上げる工夫を先行させる必要があります。

水素には脳に作用して眠りを促す効果がある、と報告されています。今後の詳しい研究が待たれるところですが、昼寝と組み合わせるなど、睡眠がもたらす健康効果を高めるはたらきが期待されます。

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