コラム

愛知県の大村知事が「東京、大阪では医療崩壊が起きた」と語って物議を醸しています。たしかに、地域の救急医療を支えてきた病院が救急搬送を断るケースが増えているなど、大都市圏で医療を巡る事情がひっ迫しているのは事実です。

今回は筆者が直近に複数の医療現場を取材する中で見聞きした病院や医師の現状についてお伝えします。

◆第2波を覚悟しつつ進められる自粛の緩和

政府は発令から49日を迎える5月25日夜、全国で緊急事態宣言を解除しました。外出や都道府県境をまたいでの移動、イベント等に対する自粛は今後、段階的に緩和されていくことが予定されています。

新型コロナウイルス感染症対策が新たなフェーズに入ったことで、医療の現場も新たな対応を求められることになります。緊急事態宣言前の状況に社会が少しずつ戻っていくわけですが、当時に比べ、市中に潜む感染者の数は大幅に増えていると考えられます。

新型コロナウイルスに感染した人のうち、発症する人は2割程度と言われており、8割の人は感染していてもそのことに気づいていません。神戸市立医療センター中央市民病院で4月初旬に行った検査では、来院した患者の3.3%の人に陽性反応が見られました。

検査を受けた人はいずれも、自身が新型コロナウイルスに感染しているとは思っていなかったわけで、市中にいる感染者は増えていると考えるのが自然です。

したがって、移動やイベント開催に対する自粛要請を緩和すれば、感染がある程度急速に広がると予想できます。これまで患者数が少なかった地域に他県から感染者がやってくることでクラスターが発生するケースなども、当然、あるでしょう。

そういった第2波の到来を予想しつつも、経済の崩壊を防ぐために、自粛要請をいったん解くのが今回の措置です。

◆ジレンマを抱えピンチに陥っている病院も

新たなフェーズを迎え、医療の現場は対応に追われています。個別にさまざまな心配事があると思われますが、筆者が取材した感染症指定病院以外の病院やクリニックで、もっとも懸念されていたのはやはり院内感染のリスクでした。

感染症の専門病院ではないからこその「スタッフを守れない」「入院患者に感染が広がったら恐ろしいことになる」といった声は切実で、その対策として不本意な対応をせざるを得ないケースもあると言います。

実際、重症患者や妊婦などを抱えている病院では、人の命に直結します。そのため、「地域で患者が増えたらクリニックを閉める」「救急搬送を断っている」といった対応をとったり、予定したりしていたりする病院が多く見られました。

地域を支えてきた医師にとって、診療の制限は忸怩たる選択ですが、そういった決断を強いられているのが現状です。診療の制限は医師としての気持ちに加え、経営面でも大きな問題となっています。

救急搬送を断ることが大きな収入減少につながるケースもあり、経営上のピンチを意識し始めている病院も少なくありません。

◆医療崩壊を意識しながら対応を模索している現場

厳しい状況にさらされている現場で取材をしていると、今後に対する戸惑いや不安の声も聞こえてきます。医師として学んだことも経験したこともない事態なので、1か月後になにが起きるのか予想がつきません。

「今後はこうなる」といった予想にもとづいて「だからこういう準備を」という備えをするのが難しいため、地域や社会の事情に合わせて、毎週のようにマニュアルやルールを改定するなど、状況の変化を追いかけ続けている現場も少なくありません。

ただ、幸いなことに、緊急事態宣言により新規患者数が減るなど、国内の状況は一時的に落ち着きを取り戻したので、その間に態勢を整えた病院もあります。

新型コロナウイルスの性質も少しずつわかってきたため、来院した人の体温を測ったり、手指を消毒させたりするなど、院内にウイルスが入るリスクを少しでも引き下げられるよう、さまざまな工夫の導入が進められています。

今までは断っていた「新型コロナ感染疑い」の患者についても、隔離しつつ一時的に治療ができるようスペースを確保する、といった環境の整備をすませた病院も見られます。

大村知事は東京、大阪での医療崩壊を指摘しましたが、筆者が大阪で取材した限りでは、患者が行き場を失う状況ではありませんでした。救急搬送を断るケースなどはあるものの、地域には救急患者を受け入れる病院が確保されており、最低限の安心を担保する医療は提供されていました。

「医療ひっ迫」の中、崩壊を防ぐためにギリギリの努力がなされているのが現状だと思われます。

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