コラム

「ヨーグルトは健康にいい」と言われます。乳酸菌やビフィズス菌の摂取により腸内細菌叢を整えることで、健康を維持できると考えられているためです。ただ、人の健康と腸内細菌叢との関係はとても複雑であり、最近では歯周病菌など多くの菌が複合的に影響していることがわかってきました。

■腸内細菌叢が変わると大腸がんになりやすい?

国内において、全がんの中でもっとも患者数が多いのは大腸がんです。国立がん研究センターが発表した2021年の予想モデルでも、15万人以上が発症すると報告されており、死亡者数も5万人以上と推計されています。

男女とも患者数が増え続けており、対策が急がれるがんの一つです。大腸がんの患者が増えている大きな要因として、食事の欧米化があげられます。肉類を多く摂取するようになったことで腸内細菌叢が変化し、大腸がんを発症しやすくなった、と考えられます。

実際、近年の研究では大腸がんを発症する前や進行に伴って増える腸内細菌がある一方、減少する細菌があることもわかってきました。そういった変化に注目すれば、大腸がんを早期に見つけたり、予防したりできる可能性があるため、研究が活発化している分野の一つです。

■がん発症への関係が強く疑われる歯周病菌

大腸がんとの関係が強く疑われる細菌の一つにフジバクテリアがあります。大腸がんの腫瘍組織内でしばしば見つかることで、2012年頃から研究例が増加しており、発がん因子となる細菌が増えやすい環境を作ったり免疫系に作用してがん細胞の増殖を促したりしている可能性が指摘されています。

フゾバクテリアはもともと人の口腔内に生息する細菌です。特別に悪い影響をおよぼすものではありませんが、歯周病菌を保護するバイオフィルムの形成に関与したり、粘膜の炎症を引き起こしたりすることがある、と言われます。

大腸がんの進行と共に増えることがわかっているため、診断に役立つのではないか、とも考えられています。

また、現時点では確定的とは言えませんが、口内環境を清潔に保つことで、大腸がんを予防できる可能性もあります。

■乳酸や酪酸ががんの発症を促進する?

これまで、大腸の健康に寄与している、と考えられてきた腸内細菌についても、見直す必要があるかもしれません。ヨーグルトや乳酸菌飲料、サプリメントなどは腸内細菌叢をより健康的な状態へと導くものとして提供されてきました。

さまざまな効果がうたわれていますが、中心となるのは含まれている乳酸菌やビフィズス菌が腸内で「乳酸」や「酪酸」の産生を促す作用です。それらの酸により、腸内を悪玉菌が増殖しにくい環境に導くことで、より健康に資するよう腸内環境を整えることができる、と考えられてきました。

ところが最近では、効果の中心である乳酸や酪酸がむしろ大腸がんの発症や悪化の要因になっている可能性が指摘されています。

たとえば、2021年10月に大阪大学の免疫学フロンティア研究センターが発表した研究では、腸内細菌により産生された高濃度の酪酸が細胞の老化を促す主な原因物質である、と報告されました。

この研究によると、大腸がんの組織内には高濃度の酪酸が存在しており、がんの発症に深く関わっている可能性が高い、と言います。

■大腸がん予防のカギは健康型食事の意識

こういった研究結果を見ると、なにを食べればいいのか迷うところです。さまざまな考え方がありますが、一つのヒントになるのが国立がん研究センターが発表しているコホート調査です。

その中に「食事パターンと大腸がんリスクとの関連について」という一項があり、健康型食事パターンと欧米型食事パターン、伝統型食事パターンについて、大腸がんの発症リスクが報告されています。

それによると、男女ともやはり欧米型食事パターン――肉類・加工肉、乳製品、酒類、果物ジュース、コーヒー、ソフトドリンク、マヨネーズ、魚介類を多めにとる食事パターンが大腸がんの発症リスクを押し上げる様子がうかがえます。

一方、健康型食事パターン――魚や乳製品、大豆食品、果物や野菜を多く摂取する食事パターンでは大腸がんの発症リスクが低くなっています。

大腸がんの予防を考えるなら、複雑な細菌叢を意識する前に、日々のメニューを健康型食事パターンへと近づけることが早道でしょう。

■まとめ

がんの発症リスクは生活習慣により大きく影響されます。食事は影響度がもっとも影響度の高い要素であり、腸内細菌叢に注目したアイテムがたくさん提供されています。

ただ、腸内細菌叢と大腸がんの関係は複雑であり、まだまだわかっていないことがたくさんあります。健康型食事パターンについては、大腸がんの発症リスクを引き下げる仕組みはさておき、一定の予防効果が確認されているので、まずは魚や大豆製品からタンパク質を摂る機会を増やすことが、もっとも容易に効果が期待できる食事方法といえそうです。

Categories: