コラム

コロナ禍が続く中、私たちが暮らす社会の様相はさまざまな形で変化しつつあります。広がる「スティグマ」の被害もその一環と言えます。「スティグマ」はもともと奴隷などに焼き付ける烙印を意味する言葉ですが、人にレッテルを貼り、排斥する行為をそう呼びます。

社会を構成するすべての人が加害者、被害者のどちらにもなり得るだけに、その病理について正しく理解しておきたいところです。

■コロナ禍で暴行、暴言の被害 自殺も多発

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がまだまだ収束しない中、感染した患者やその家族、さらには医療者に対してまで、排斥する動きが多くの国で見られます。

筆者の知人にも職場で向かいの席に座っている同僚がCOVID-19に感染したことで、他の社員から差別的な扱いを受けた人がいます。「社員食堂に来るな」「トイレを使うな」などと言われ、出勤するのが苦痛になったそうです。

こういったスティグマは会社だけでなく、学校や地域社会など、あらゆるところで発生します。暴言や暴力を伴うこともあり、その影響は非常に深刻です。

現在、問題となっているアジア人差別もスティグマの一環と言えます。トランプ元大統領が「中国ウイルス」などと呼んだ影響もあり、アジア人というだけで暴言や暴行の対象となるケースが欧米で相次いでいます。

■古来、疾病はスティグマの対象だった

スティグマによる被害が発生するのはもちろん、今回が初めてではありません。古来、病気に苦しむ人が差別され社会から阻害されるケースは洋の東西を問わず、常に見られました。

国内では結核患者や統合失調症の患者について、家族も含めて社会がスティグマの対象とすることが多く、それを恐れた親族が患者を座敷牢に閉じ込めることもありました。

ハンセン病については「悪行の報い」とする記述が聖書などにも見られたため、世界各地でひどい差別が古来より続いてきました。今回のCOVID-19についてもそういった古来の慣習を踏襲するかのように、スティグマが発生し、多くの人が被害に遭っています。

幸いなことに、差別を行う人は少数派ですが、時にはひどい暴力をふるったり、患者や家族などを社会死に追い込んだりすることもあります。患者や家族が自殺した、というケースも報じられており、被害が長く続く様子を見ると、「COVID-19よりも恐ろしい」とも言えそうです。

■国内に多い「感染は本人のせい」は間違い

スティグマの被害が発生する要因の一つに、「感染は本人の責任」という考え方があります。感染者の一部がウイルスを拡散することは事実です。

そんなリスクを社会にもたらす感染者になったのは不注意や不要不急の外出をしたりしたせい、と決めつけて、非難する人が少なくありません。

しかしながら、感染にはさまざまな経路があり、完全に防ぐのはほぼ不可能です。現場仕事をしている人であれば、家から出なければ生活が成り立ちません。また、その人が担っている社会の機能が止まってしまいます。

すべての人が社会との関わりを断ち切って生活することなどできません。不注意による感染ももちろんありますが、細心の注意を払って生活していても、感染を完全には防げません。

今、感染者を非難している人が明日は感染者になってしまうことも十分にありえるのです。COVID-19感染者を非難するのは道理に合わない行為と言えます。

■国連合同エイズ計画(UNAIDS)がガイダンスを発表

今回、コロナ禍でスティグマの対象となっている層は多岐にわたります。感染者やその家族、彼らにプライベートや仕事において接した濃厚接触者、患者と接する医師や看護師などさまざまな人が差別され排斥されているのです。

こういった状況に対して、国際的な機関も危機感を示しています。2020年10月には国連合同エイズ計画(UNAIDS)が各国に向けてガイダンス(手引き)を発表。

その中ではかつてエイズ(HIV)がスティグマの対象となった経験に基づいて、『コミュニティ、職場、教育、保健医療、司法、緊急・人道支援の6分野』において取る必要がある対応策が提示されました。

正しい情報を広める啓発活動の必要性やスティグマにつながる言葉の回避、差別を受けた際の対処方法などが詳細に記載されており、非常に参考になります。

■必要なのは正しく恐れること

スティグマは無知から生まれます。無知により不安を募らせた人たちがストレスのはけ口としてCOVID-19感染者や関係者を攻撃するケースが大半です。

したがって、スティグマを避けるためにもっとも重要なのは正しい知識を身につけることです。COVID-19とはどういう感染症なのか、感染の仕組みや症状、リスク、予防策などについて、正確に理解していれば、不安の暴走を防げます。

また、自身がいわれのない差別を受けた際も、正しい知識に基づいて、相手の間違いを指摘できます。

ただし、知識が必要だから、と闇雲に情報を集めるのはかえって危険です。COVID-19については間違った情報やあやふやな情報が多数流布されているので、情報の発信元を確かめ、信頼できるかどうか、評価しながら取り入れる必要があります。

COVID-19については正しく知って、正しく恐れることが大切なのです。

■まとめ

不安やストレスにさらされた際の行動は人によって異なります。うつ状態に陥る人もいれば、攻撃性を増す人もいます。まだ終わりが見えないコロナ禍の中で、どうやって理性を保ち続けるか――身体だけでなく、心や社会の健康を維持する粘り強い取り組みが、今、すべての人に求められている、と言えそうです。

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