コラム

コロナ禍で拡大している健康リスクの一つに糖尿病があります。がんなどあらゆる疾患のリスクを押し上げる恐ろしい病気であり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)についても、重症化する危険性をアップする要因の一つです。

患者数が多いⅡ型の場合、治療の基本は生活改善ですが、なかなかうまくいかないケースが少なくありません。

■2割が糖尿病! 国民病化するヤバい実態

糖分は人が活動を支える非常に重要なエネルギー源の一つです。そのため、全身の細胞に届けるべく、血液中には一定の割合が含まれています。

この糖の割合――血糖値は通常、適切な状態で保たれていますが、なんらかの原因で高くなりすぎた状態が続くと、糖尿病と診断されます。

高血糖値が続く原因は主に二つあります。一つはすい臓が担うインスリンの分泌機能が損なわれること。もう一つは過食や運動不足です。前者をⅠ型、後者をⅡ型と呼びます。

厚生労働省が発表した令和1年「国民健康・栄養調査」によると、「糖尿病が強く疑われる人」の割合は男性で19.7%、女性で10.8%です。

国民病とも言える状態が長く続いていることから、近年は国が定める重要疾患に指定されています。

■対策の基本は地道な生活改善

糖尿病の対策はタイプによって異なります。Ⅰ型の場合は不足しているインスリンを注射等で補う治療が基本です。一方、Ⅱ型の場合には原因となっている生活習慣の改善がもっとも重要な治療となります。

食事におけるカロリーの制限と栄養バランスの確保。有酸素運動を中心とするエクササイズといった対策を続けることで、体重を減らし、血糖値をコントロールすれば、健康状態を改善できます。

がんや難病指定されている疾患などと異なり、治癒が医学的に難しいわけではありません。にもかかわらず、糖尿病からの回復は難しく、成功する人の割合はあまり高くありません。

■糖質の依存性はコカイン以上

糖尿病からの回復が難しいのは多くの場合、セルフコントロールを続けられないからです。「身体に悪いから糖質を減らし、野菜などを多めにとるべき」とわかっていても、それを毎日続けるのは容易ではありません。

食生活を変えにくいのは糖質に依存性があるためです。人を含む動物には行動嗜癖と呼ばれる仕組みが備わっています。ある刺激により脳内でドパミンと呼ばれる神経伝達物質が分泌されると、報酬系と呼ばれる回路が活性化して「快楽」を感じます。

この報酬系が活性化する経験については、何度もくり返したい、という強い欲求を感じるようになります。これが行動嗜癖です。あらゆる中毒の正体はこの行動嗜癖であり、意思の力で抑えるのは非常に大変です。

糖質にも報酬系を活性化させるはたらきがあります。ラットを使った実験では依存性が強い麻薬の一種、コカインよりも強い依存性を示した、と報告されています。単純に言えば、糖質はコカインよりも使用を制限するのが難しいのです。

■糖質制限のカギは脳へのアプローチ

薬物中毒者が何度も使用をくり返すことでもわかる通り、行動嗜癖を意思の力でコントロールするのは非常に困難です。この難しい取り組みを成功に導くためにはなにが必要なのでしょう?

そのヒントになりそうな情報の一つに「ラットパーク実験」があります。1980年にサイモン・フレーザー大学のブルース・アレグサンダー博士が行った実験です。

同実験では、快適とは言えないケージで飼育したラットと快適な環境(アレグサンダー博士はラットパークと命名)で飼育したラットに普通の水とモルヒネ入りの水を与えています。

その結果、ケージで飼育されたラットがモルヒネ水を好む中毒ネズミになったのに対し、ラットパークで飼育されたラットは普通の水を好んで飲むようになりました。

さらに、モルヒネ中毒になったラットをラットパークに移したところ、普通の水を飲むようになったといいます。

このことからわかるのは、中毒から回復するためには環境を変えて、脳が受ける刺激を変えることが有効、という事実です。脳がストレスを感じている状況では、有害でも依存性の高い物質の摂取をやめられませんが、脳にかかる負荷を軽減することで、中毒状態からの回復を促すことができるのです。

■まとめ

糖尿病――特にⅡ型糖尿病は一種の依存症により慢性化しているケースが少なくありません。生活習慣の改善が必要とされますが、そのためにはまず、脳が感知しているストレスを減らすことが重要です。

一見遠回りに見えますが、糖尿病対策は一生かかる取り組みなので、時間をかけてでも確実なやり方を選ぶ方が賢明でしょう。

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