コラム

日本人の約半数がピロリ菌に感染している、と言われています。実際、慢性的に胃炎をくり返す人の多くがピロリ菌を保有しており、抗生剤により除菌することで胃炎を抑えることができます。

その一方、何度も胃炎をくり返しているのに、検査で陰性と判定される人も実は少なくありません。ピロリ菌でなければ何なのか――いくつかの原因が明らかになりつつあります。

■ピロリ菌陰性でもくり返す胃炎

欧米人に比べて日本人は胃腸が弱い、と言われます。もともと消化器への負担が大きい肉よく食べる欧米人に比べ、日本人は胃腸に優しい炭水化物や魚を多く食べてきました。

そのため、食事の内容が欧米化する中、胃腸がその負担に耐えかねるケースが増えているのです。

また、保有するピロリ菌の性質が欧米と日本では異なることもわかっています。欧米人にもピロリ菌感染者は少なくありませんが、彼らが保有する菌は日本人を含む東アジア人が感染しているものに比べ、胃に与えるダメージが小さいのです。

こういったことから、「慢性胃炎=ピロリ菌の仕業」という認識が国内では強く、胃炎をくり返す人は高い確率で、かかりつけ医などからピロリ菌感染の検査を勧められます。

しかしながら、検査で陰性と判定されるケースも少なくありません。慢性胃炎につながる事象がピロリ菌感染以外にもいくつかあるためですが、一般にまだあまり知られていないため、見逃されがちです。

■ハイルマニイ菌感染の可能性

ピロリ菌と似た性質を持つ最近の一つにハイルマニイ菌があります。「ヘリコバクター・スイス」とも呼ばれ、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)と同じく、胃の中にいて胃炎を起こすことがわかっています。

日本ヘリコバクター学会で発表された全国調査の結果によると、ピロリ菌陰性だった慢性胃炎患者27人の約半数がこのハイルマニイ菌に感染していたといいます。

ピロリ菌と非常に近い性質を持つハイルマニイ菌ですが、いくつか顕著な違いもあります。たとえば、ピロリ菌は霊長類にしか感染しませんが、ハイルマニイ菌はもともと豚を宿主とする細菌であり、犬や猫などさまざまな種に感染します。

感染により発症する疾患の種類も異なり、ピロリ菌は萎縮性胃炎や胃潰瘍などを引き起こしますが、ハイルマニイ菌は慢性の胃炎を起こすものの、潰瘍にいたる例は少ないと言われます。

ただ、胃がんの一種である胃MALTリンパ腫についてはピロリ菌感染の7倍も発症リスクが高い、という研究結果もあるので、危険性の高い感染症の一つと考える必要があります。

以前は培養が難しいため、検査できる機関が少ない、という問題がありましたが、2021年3月に国立感染症研究所の研究者らが人工培地での培養に成功しており、今後は診断法等の開発が進むものと期待されています。

■自己免疫性慢性胃炎の可能性

慢性胃炎の原因としてもう一つ考えられるのが、自己免疫による発症です。免疫はもともと、体外から侵入した病原体やがん細胞など、人体における有害物を排除する仕組みですが、さまざまな原因で自身の細胞を攻撃し始めることがあります。

胃の細胞でこの免疫暴走が起きることにより発症するのが自己免疫性萎縮性胃炎(autoimmune metaplastic atrophic gastritis:AMAG)です。

AMGは遺伝性のある疾患で、その患者は胃を構成する細胞の一つであり、胃酸の分泌に関わる壁細胞などに対して抗体を持っています。抗体が壁細胞を攻撃するため、胃炎を発症し、胃が萎縮してしまうのです。

AMGの患者には橋本病などの甲状腺異常が高い確率で見られ、胃腺がんを発症するリスクが一般の人に比べて約3倍高いことがわかっています。

■治らない治療を続けない

患者が胃の不調を訴えた場合、医師の多くは胃酸の分泌を抑える薬や胃壁を保護する薬を処方します。それでも症状があまり改善しない場合や、胃痛をくり返す場合には、ピロリ菌検査をオーダーするのが一般的です。

その結果、検査でピロリ菌が見つかったら、抗生剤により除菌することにより、高確率で慢性的な胃炎を改善できます。

ところが、ピロリ菌が見つからなかった時には、原因を特定するためにさらなる検査をオーダーしてくれる医師はあまり多くありません。原因がわからないまま、症状の軽減につながりそうな薬を処方され続けるケースが多いのです。

患者にとっては胃の不調と長く付き合うことになってしまうため、適切な対応とは言えません。ピロリ菌感染以外にも、慢性胃炎の原因はいくつか考えられるので、効率的に治療するためには、それらについて検査をして原因を特定する必要があります。

■まとめ

慢性的な胃炎を長く抱え続けている人は多く、患者も医師も「簡単には治らないもの」と考えがちです。しかしながら、最近ではピロリ菌感染以外のケースも検査で確定できるようになってきています。

医師が検査をオーダーしてくれない場合には、患者側が治療の主体となって、原因特定の可能性などを尋ねてみてもよいでしょう。

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