コラム

吉永小百合主演の映画、「いのちの停車場」が話題を集めています。同作は人が必ず迎える最期について、訪問診療を提供する医師の目線で描いた映画です。

人生の終末期になって、治らない病気や障害を抱えたとき、残された時間をどのように過ごすのか、というのはすべての人にとって重要な課題です。この記事ではヒントとなる制度や考え方を紹介します。

■治らない病気と向き合う時代

医療の進歩は人がなかなか死なない時代をもたらしました。その結果、多くの人が人生の終末期には身体の不自由や苦痛を抱えて暮らしています。

脳卒中により慢性化した肢体不自由、ALSなどの難病、くり返す誤嚥性肺炎、認知症、がんなど、加齢により起きる不具合の多くは、どんな治療を施しても治癒しません。

医療はもともと、病気や障害を治癒するための知識や技術でしたが、加齢により生じる問題を治癒することはできません。高齢化が進む国内では、治らない病気が増えており、治療ではなく緩和やQOL(生活の質)の維持を目的とする医療のニーズが高まっています。

映画「いのちの停車場」ではもともと救急救命医だった主人公、白石咲和子が故郷に戻って訪問診療を提供する医師に転身します。その変遷はまさに、医療を巡る環境の変化を象徴するものと言えそうです。

■増えている「在宅」という選択肢

治らない病気を抱える高齢者が増える中、国が選択したのは在宅医療へのシフトでした。それまでは、自宅での生活が難しかったり、重症化や死亡のリスクがあったりする場合には、入院生活を継続するのが一般的でした。

政府はそれをあらためて、在宅医療の拡充へと舵を切ったのです。その背景にあるのは財源を含む医療資源のひっ迫です。患者が自宅で過ごしてくれた方が、国の経済的負担は小さくなります。

病院ではなく住み慣れた家で暮らしたい、という患者のニーズとも合致するため、以前に比べると、在宅を選択する人が増えています。

厚生労働省が3年ごとに発表している患者調査によると、2017年の調査日に在宅で医療を受けた患者数は18万人にのぼり、過去最多を記録しました。2014年の調査に比べ、2万4000人も増加しており、急増している様子がうかがえます。

大きな不自由やリスクを抱えている人が在宅で過ごすためには、適切なサポートが欠かせません。喉にたまった痰を除去する喀痰や胃瘻のケアなど、必要とされるサポートは多々あります。

以前は患者が自宅でそういったサポートを受けるのが難しかったのですが、最近では「いのちの停車場」でも取り上げられている訪問診療や訪問看護などを利用することで、そういったサポートを受けることが可能になりました。

■終末期の生活を充実させるために必要なこと

治らない病気を抱えた患者にとって、終末期をどこでどのように過ごすかというのは非常に意味の大きな選択です。苦痛や不便の軽減を考えるなら、病院が無難な選択肢ですが、自由度が低い、という難点があります。

好きなときに好きな場所に行ったり、好きなものを食べたり、時間を気にせず人とコミュニケーションをとったり、ということができません。

入院患者が外出する際には多くの場合、病院側の許可が必要です。食事は基本的に病院食ですし、面会時間は限られています。残された時間が限られている患者にとって、こういった制限は幸福度に関わる大きなマイナス要素だと思われます。

一方、在宅で過ごせば、そういったマイナス要素を回避できますが、医療的なケアや生活面のサポートを受けにくい、という問題があります。

喀痰や胃瘻による栄養補給といったケア、買物や炊事、洗濯といった家事などのサポートを担ってくれる家族がいる場合も、負担への気遣いから在宅を選択できないケースは少なくありません。

実際、最近では若年層や未成年者が祖父母の介護を担当するケースが問題となっており、家族の負担は終末期の患者にとって大きな心配ごとです。

そういった介護の問題を軽減してくれるものに地域包括ケアがあります。地域のクリニックや病院、訪問看護センター、ケアマネージャーなどが一体となって患者を支える仕組みです。

たとえば、入院していた患者が在宅を希望する場合には、地域包括ケアに参加するかかりつけ医や訪問看護センターの職員、ケアマネージャーなどが病院を訪れて、「退院前カンファレンス」を行います。

患者が在宅で暮らせるよう、訪問診療や訪問看護、生活サポートを組み合わせたメニューを作成して、退院前に環境を整えるのです。患者や家族が積極的に申し出れば、さまざまなサービスを利用できます。

実際、筆者が取材した中には全身が動かなくなる難病、ALSの患者が最期まで自宅で過ごせた、というケースもありました。

■まとめ

終末期を自宅で過ごすためのキーマンはかかりつけ医です。訪問診療をしてくれる医師がかかりつけ医なら、地域包括ケアを利用しつつ、在宅で最期を迎えられる可能性が高くなります。

ただ、重い病気や障害を抱えてから、かかりつけ医を変えるのは難しいことがあります。したがって、なるべく最期まで自宅で過ごしたい人は健康な時期から訪問診療を手がけている医師をかかりつけ医に選ぶのがよいかもしれません。

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