コラム

COVID-19は感染による弊害だけでなく、多くの人の健康に多大な影響を与えています。運動不足によるフレイル、親しい人たちとの接触が減ることによる認知症の悪化など、さまざまな悪影響が見られていますが、ここにきて、国内では「自殺者の急増」という問題が心配されるようになりました。

■夏頃から急増! 11月は5年間で最多

警察庁が発表しているデータによると、自殺者が増え始めたのは夏以降です。秋が深まるにつれて、急激に増加しており、11月は1か月の自殺者数としては直近の5年間でもっとも多い、2153人となっています。

昨年の同時期に比べて、約39.9%も増えており、特に女性の自殺者数は82.6%もの大幅増となりました。青少年の自殺も増えており、2020年4月~10月の自殺者数は246人となっています。

昨年の同時期と比べて24%、一昨年と比べても17%も増加しており、今後の推移が心配されます。

世界各国に比べ、もともと自殺者数が多い日本ですが、近年はさまざまな対策が功を奏してきたこともあり、2009年~2019年まで10年連続で前年を下回ってきました。

2020年はこのままのペースで増え続けると、昨年の数を上回るのは確実です。COVID-19による死亡者数は2000人弱なので、単純に比較すると、自殺者の増加はCOVID-19を上回る健康上のリスク、とすら言えそうです。

■自殺の原因は経済的な問題だけではない

COVID-19が自殺につながる理由は多様です。いちばんに考えられるのは経済的な問題から自殺にいたるケースですが、もともとお金の問題で自殺する人が多い男性の増加率は21.3%にとどまっています。

この結果からは「経済的な問題を理由とする自殺が増えてはいるものの、自殺者の急増をもたらす主たる要因ではない」と考えられます。

今回の自殺者急増に結びついている可能性が高い事象は主に2つあります。一つは7月から続いた有名芸能人の自殺です。マスメディアが大きく報じたことで、ウエルテル効果により若年層の自殺を増大させた、と考えられます。

有名人に親近感を抱いていた層が自殺という選択肢を身近に感じてしまうことから、連鎖が起きるのがウエルテル効果です。国内ではこれまでアイドル歌手やロック歌手の自殺に端を発して、何度か発生していますが、今回は有名人の自殺が重なったことから、大きな効果が現れている、と推察されます。

■自粛がもたらす○○の変化が直撃

もう一つ――さらに大きな要因と言えるのが、COVID-19による生活環境の激変です。たとえば、感染の広がりを抑えるために多くの企業でテレワークが導入されました。

その結果、出勤しなくなった夫および妻が一緒に過ごす時間が急に増えたことで、家庭内においてさまざまな軋轢が生じています。「昼食をどうするのか」といった些細なことにストレスを感じる人が増えており、中には離婚にいたるケースもある、と報じられています。

子供にとっても、休校→開校という変化は大きなストレスの元です。個人差はありますが、馴染んできた生活リズムが変わることで、精神的なバランスを崩すケースは少なくありません。

もともと、環境の変化は人にとってストレス要因であり、うつや自殺にいたる大きな原因の1つです。そのエビデンスと言えるのが、月ごとの自殺者数統計です。国内ではほぼ毎年、3月が最多となっています。

会社であれば移動のシーズンですし、未成年者にとっては進学やクラス替えのシーズンです。環境が大きく変わることがストレスとなり、うつや自殺にいたるケースが、3月には非常に多いのです。

2020年はCOVID-19患者数の増減により、自粛→開放→自粛という変化がめまぐるしく続きました。そういった変化により、大きなストレスを抱えることになった人たちの自殺が相次いでいる、と考えられます。

■自殺対策の基本は「TALK」にあり

自殺対策の基本は「気づき」にあります。自殺する人はいきなり死を選ぶわけではありません。いくつもの要因が重なり、ストレスをうまく軽減できなくなることで、うつ状態に陥り、その後で死にいたるケースがほとんどです。

ですから、自分や身近な人たちが死につながるストレスを抱えていることを知覚し、「放置すると危険」という認識をいち早く持つことで、事態が深刻化する前に、対策を講じることが可能になります。

自殺する人の9割はうつ病など精神的な疾患を抱えている、というデータもあるので、早い段階で対応すれば、リスクを回避出来る可能性は高いのです。

自殺の予防策として知られているものに「TALKの原則」があります。下記の対応の頭文字を取って名付けられたもので、身近な人たちの悲劇を防ぐのに役立ちます。

Tell:声をかけ、心配していることなどを伝える。

Ask:心配事や問題について具体的に尋ねる。

Listen:相手の話を傾聴する。

Keep safe:自殺にいたらないよう、安全を確保する。

これらの対策に共通しているのは、「独りにしない」ということです。

■まとめ

さまざまな問題はあるものの、総じて言えば、COVID-19という災厄を国内社会はうまく抑えている、と言えるでしょう。感染者数、死亡者数ともに非常に少ないのは、日本人が持つ勤勉性や協調性といった国民性の成果です。

一方、自殺者数が多いことはそういった国民性がもたらす代償、と考える必要があります。感染症と同じく予防することは可能なので、COVID-19が心にもたらしているリスクを理解して、身近な人たちに目を配ることが大切です。

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