コラム

不要不急の外出を控えるように、との要請が出される中、通勤電車の乗客数や繁華街の人出は患者数を減らせるレベルにはいたっていません。新型コロナウイルス感染症の患者が急増し、病院のキャパシティを超えると医療崩壊が始まる、と懸念されています。

しかしながら、問題は病床の余裕だけではありません。日本の医療は近年、新型コロナウイルス感染がなくても、崩壊寸前だと言われてきました。

医師の時間外勤務は過労死ラインオーバー

「苛酷な仕事」という言葉から多くの人が連想するのはどういった職業でしょう? 長距離トラックの運転手やシステムエンジニア、介護施設のスタッフなどを思い浮かべる人が多いのではないか、と思います。

いずれも、勤務時間が長いことや不規則な勤務態勢といった問題を抱える職種です。介護スタッフの場合にはさらに、対人関係のストレスが大きい、という問題もあります。

一般にあまり認識されていない気がしますが、実は多くの勤務医もそういった職種と同様に厳しい勤務状況を強いられています。過労死や自殺が頻発しており、医療の世界では大きな問題とされてきました。

労働行政では健康障害につながりやすい「過労死ライン」を1月あたり80時間としており、逆に健康障害を起こす危険性が低いラインを45時間以内としています。

全国医師ユニオンが発表した「勤務医労働実態調査2017」によると、アンケート調査に回答した勤務医のうち、平均すると救急科では週に94.4時間、産婦人科では82.7時間もの時間外労働をしているとのことです。

その他の診療科も総じて時間外労働が多く、45時間以内におさまっているのはリハビリテーション科や眼科くらいです。

休日がなく夜勤や当直明け勤務も

勤務医の多くには時間外労働に加え、夜間の当直勤務や必要があれば深夜でも呼び出しに応じなければならない待機(オンコール)があります。警察官や消防士など夜勤のある仕事は他にもありますが、シフト勤務となっており、通常は夜勤明けには休めます。

ところが、医師の場合には当直が明けると、そのまま休みなしに通常の日勤をこなす人が8割にのぼります。まともに眠ることなく20時間以上も働くケースが少なくなりのです。

オンコールも医師の心身を削ります。自宅にいても、急患や患者の急変があれば、いつ呼び出しがかかるかわからないため、くつろぐことができません。

そういった苛酷な勤務態勢でも、休日があれば、心身を休ませることができますが、勤務医は休日もなかなか確保できません。

前述の全国医師ユニオンが行ったアンケート調査でも、調査前月の休日が0日だった、という医師が10.2%もいます。5回未満という人も47.3%にのぼっており、まともに休むこともできない実態が報告されています。

都市部の大病院で働いたことがある医師に話を聞いたことがありますが、勤務において辛いこととして、多くの医師があげたのが「当直やオンコールの負担」でした。

こういった厳しい勤務態勢により、頻発しているのが勤務医の過労死や自殺です。2019年5月には広島、長崎で相次いで医師の自殺や過労死を労災と認める判決が下されており、医療の世界では深刻な問題として注目を集めました。

背景にあるのは医師の不足と偏り

勤務医の労働環境が苛酷なのにはいくつかの理由がありますが、もっとも単純かつ影響が大きいのは医師の数が足りないことです。日本医師会総合政策研究機構が発表している人口1000人あたりの医師数(2017年前後)を見ると、日本は2.4人となっています。OECDに加盟する35か国の平均は3.5人なので、日本は平均の7割に届いていないのです。

さらに超高齢化した社会においては医療を必要とする人が多い、という問題があります。国民皆保険制度が整備されている国内では、小さな負担で質の高い医療を受けられることもあり、国民一人あたりが病院を受診する回数が他国に比べて多い、とも言われます。

多大なニーズを少ない医師が支えているのが、国内における医療の現状なのです。

医療の現場にはもう一つ、「配置に大きな偏りがある」という問題もあります。医師が多い地域と少ない地域という偏りがあるのに加え、医師が多い診療科と少ない診療科、という偏りも大きいのです。

そのため、患者数に対して医師が少ない地域、少ない診療科では、特に医師の負担が増大しています。

新型コロナウイルス感染症で近づく限界

ここまで解説してきた医師の窮状は、新型コロナウイルス感染症が広がる前に危惧されていた問題です。世界中で感染症が広がることで、現場の負担は確実に増大しています。

新型コロナウイルスに感染している人が受診した場合、他の患者や医師、看護師等の医療者に感染が広がらないよう、通常診療の何倍もの手間をかけねばなりません。

検査態勢が不十分なので、自身が新型コロナウイルスに感染しているとは知らない患者もやってきます。知らずに診療した医師が感染するリスクを現状の仕組みでは抑えられません。

医師や看護師に感染者が出た場合には病院を閉鎖することになります。その結果、地域の医療事情はますますひっ迫し、崩壊の危機へと一気に近づいていきます。

GWを家で過ごすことが医療崩壊の予防につながる

医療の崩壊は死亡率の急騰につながります。たとえば、新型コロナウイルス感染症による死者数(人口100万人あたり)を見ると、患者数が一気に増大して医療のキャパがひっ迫したイタリアでは400人以上(2020年4月22日時点)にのぼります。

一方、日本では1.5人程度にとどまっており、患者の増加が懸念されている中でも、大きな差があります。ただし、このまま乗り切れる保証はどこにもありません。医療が崩壊した瞬間から、死亡者は急増するはずです。

先行きの見通しは立ちませんが、目前に迫るGWが1つの分かれ目になることは確かです。政府や自治体からは再三にわたって、GWの外出を控えるよう要請が出されています。医療を守り、社会を守るために一般の人ができるもっとも効果の大きな努力は「なるべく家の外に出ないこと」です。

外出について迷った時は、医療はもう限界の先にいたっておりいつ崩壊してもおかしくないことを思い出してみてください。

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