SNSがもたらす健康被害を考える――がん治療を拒む義母の情報源はYouTubeだった

Medical Life Science Laboratory

マスメディアの衰退が進む中、代わって大きな情報源となっているものにSNSがあります。医療や健康について語るチャンネルも多く、中には命に関わる誤情報を垂れ流しているケースも少なくありません。

今回は筆者が体験した身近な問題を題材に、YouTubeがもたらすリスクについて、考えていきたいと思います。

■がん治療を拒む義母の情報源はYouTube

私ごとで恐縮なのですが、つい先日、妻の母親が胸腹部大動脈瘤の治療を受けました。破裂寸前にまで肥大していた血管にステントを留置するという外科的治療で、カテーテルを用いた手術は6時間におよびました。

幸い、素晴らしい医師の技倆もあり、無事退院できたのですが、治療を担当した医師から一つの宿題を渡されることとなりました。手術前後に行ったCT検査で肺に小さな影が見つかったのです。

医師によると、がんの可能性がある、とのこと。ただし、がんだとしても非常に初期なので、専門の病院で適切な治療を受ければ問題はない、との説明でした。

義母からその話を聞いた私はさっそく、地元である神戸で適切な治療を受けられそうな病院をピックアップしました。ところが、いざ、受診をという段になって、義母は「治療は必要ない。がんかもしれないが放置したい」と言い出したのです。

驚いた妻が理由を尋ねると「H先生がYouTubeで検査や放射線、手術などは有害だと教えている」と言います。70代の義母は普段からiPadを使いこなし、PlayStationでゲームを楽しむなど、どちらかと言えばITスキルが高い高齢者です。

妻に言わせると、それがあだになったようで、最近では「怪しいYouTubeチャンネルばかり見ている」とのことでした。

■100%がんを治すと豪語する美容整形外科医

筆者に対しても義母から「H先生のYouTubeを見てほしい」という希望があったので、確認してみたところ、内容はひどいものでした。一種の温熱治療器を紹介しつつ、「細胞検査をする前に私のところに来てくれれば100%治す」などとうたっているのです。

背景を調べてみたところ、美容整形外科医であることがわかりました。ホームページには所属している学会の名前がズラズラと並んでおり、いかにもさまざまな分野の専門家に見えますが、これはまやかしです。

○○学会に所属するのに通常、審査は行われません。会費さえ支払えば会員になれるので、「○○学会所属」はその分野の知識や経験を示す証拠にはならないのです。

その医師の知識やスキルを示すのは専門医資格ですが、H医師のホームページには記載がまったくありませんでした。

もちろん、専門医資格がないからダメな医師、というわけではありません。しかしながら、専門性の欠如が間違った情報発信につながっている場合には大きな問題がある、と考えられます。

たとえば、H医師の言う「細胞診前なら治癒率100%」は大きな矛盾をはらんだ情報です。多くの場合、腫瘍が悪性かどうかを判断するためには患者の身体から腫瘍の細胞を採取して検査します。

この際に腫瘍を傷つけることから、細胞診にはがん細胞が散らばったり、刺激により腫瘍が大きくなったり、といったリスクがあるのは事実です。H医師はそういったリスクのせいで、がんが手のつけられない状態になるので、その前なら100%治せると言いたいのでしょう。

ところが、実際には細胞診をしなければ、健診等で見つかった腫瘍ががんかどうかはわかりません。また、治療実績についても、何人に対して治療を行い、何人が治癒したのかという実績の数字を見つけることはできませんでした。

YouTubeで発信されている情報を冷静に分析すると、「がんかどうか不明な症状について、数字を示すことなく100%治すと言っている」ことがわかります。

■「がんは恐くない」「マスク不要」……危険な情報と遭遇しやすい時代

インターネットが普及する以前、一般の人の多くは主にマスメディアを通じて情報を得ていました。もちろん、マスメディアにも偏りはありますが、新聞やテレビで情報が公開される過程には、多くの人や組織が関わっているため、大きな間違いや危険な嘘などはそれなりに高い割合で排除されていました。

ところが最近では、SNSの普及にともない、一般の人が明らかに間違っている情報に接する機会が増えてしまいました。医師の中にも営利目的や思想的な偏りにより、エビデンスが薄弱な情報を流す人が少なくありません。

そういった情報が恐ろしいのは、患者や家族にとって「そうであってほしい情報」だからです。苦痛の大きな手術、抗がん剤治療などをしなくてもがんが100%治るのであれば、その方が望ましいに決まっています。

患者や家族はそんな嬉しい情報に接すると「信じたい」という気持ちが先走ってしまい、疑ったり検証したり、といった健全な対応を怠ってしまうのです。

その結果、標準的な治療に取りかかるのが遅れてしまい、不幸にも命を落としてしまうケースが有名人においてもしばしば見られます。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)についても同じことが言えます。マスク不要、自粛不要とする情報を信じる人が今でも少なくありません。マスク着用の負担や経済的なダメージを忌避したいという思いから、「信じたい情報」に飛びつく人が多く、エビデンスにもとづく議論がなされていないケースがしばしば見られます。

■信じたくない情報を集めて冷静に検証する

さまざまな情報が飛び交う中で、なにが正しいのかを見極めるためには、感情をいったん脇に置いて考える必要があります。「信じたくない情報」「耳に痛い情報」をあえて集め、冷静に検証してみる作業が大切です。

YouTubeなどのSNSはその意味でも危険です。間違った情報を伝える動画を視聴すると、それに関連する動画が表示されるため、不正確な情報ばかりに接することになりかねません。

ですから、「関連動画」を自動的に見るのではなく、自身であえて、反対意見を探す努力が必要になります。それをするかどうかで、生死が分かれることすらあるので、健康に関する情報を集めるときには、ぜひ、意識して「反対意見」を収集してみてください。

■まとめ

あえて耳障りのいい間違った情報を流すことで、経済的な利益を得られる時代です。なにを信じるかは各個人の自由ですが、健康や医療に関する情報の判断は生死を分けることがある、と理解しておくことが大切です。

 

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